暑い夏は冷たいそうめんが美味しい季節……と思いきや、熱々の「ラーメン」が脚光を浴びていることをご存じだろうか? フライパンにたっぷり野菜を入れて調理する『蒸し鍋ラーメン』が注目の存在になっているというのだ。
昨年、永谷園は秋冬のヒット商品である『煮込みラーメン』の“春夏バージョン”を開発することになった。『煮込みラーメン』の特徴は、手軽な調理でラーメンといっしょに野菜もたっぷり摂れることだ。暑い夏場でもこの特徴を活かせれば、きっと受けるはず。
「手軽な調理」「たっぷり野菜が摂れること」このふたつをテーマに、夏でも食べやすい『煮込みラーメン』の開発に、竹内を含む商品企画グループのメンバーが乗り出した。
毎日チーム内でアイデアを出し合っては検証する日々が続いた。100を超えるアイデアが生まれ、そのほとんどが消えていった。残った数少ないアイデアのひとつに、「蒸し料理」があった。野菜の蒸し料理は、手軽に調理できてヘルシー。甘みが出るので、野菜嫌いの子供たちもよく食べる。周囲には「夏に蒸し料理?」と訝しがる声も多かったが、入社4年目、マーケティング本部の竹内陽子は動じなかった。
さらに、「フライパンで手軽に作る」というアイデアにもこだわった。どこの家庭にもあるフライパンを、“万能調理器”として蒸し料理にも使ってしまおうというわけだ。
5月に入ると、麺の開発に取り掛かった。調理時間は7~8分。この間ずっと蒸し続けてもコシを失わない麺が必要だった。しかし、従来の『煮込みラーメン』の麺では硬さが残ってしまう。試しに即席ラーメンの麺を使ってみたが、箸でつかめないほどゆるくなり、溶けてしまった。
そこで、北海道にあるグループ企業の製麺メーカーに、まったく新しい麺の開発を依頼した。試作された麺は竹内の元に送られ、試食する。だが、歯ごたえや味など、なかなか納得できるモノが出来上がってこない。相手は麺作りの神様のような存在である。しかし竹内は臆せず、何度も何度も作り直しを依頼し続けた。
「もっとコシのある麺がほしいんです!」
麺の開発を依頼してから3か月。試行錯誤の末、ようやく思い通りの麺が出来上がった。7分間蒸してもコシがあり、つるつるした食感もあった。野菜から染み出たうまみもよく絡んでいる。
今年3月、満を持して『蒸し鍋ラーメン』発売。“GWまでが勝負”といわれた売り上げは、未だ衰えを見せていない。
■取材・構成/中沢雄二(文中敬称略)
※週刊ポスト2013年8月9日号