がんの放射線治療は、放射線ががん細胞にあたり細胞のDNAが傷つき、がん細胞が死滅することを利用している。このとき正常細胞のDNAも傷つくが、正常細胞のほうが回復機能が高く、がん細胞はダメージが蓄積して死滅する。
従来の放射線治療はX線やガンマ線を用いているが、これらは身体を透過する性質があるため、がんの周囲の正常な組織を傷つける可能性がある。陽子線治療は身体のある深さで吸収がピークになり、止まる性質があるため、正常な組織への照射線量を減らすことができる。
国立がん研究センター東病院放射線治療科の秋元哲夫科長に話を聞いた。
「陽子線治療の主な適応部位は、前立腺がん、食道がん、頭頸部がん、肺がんなどですが、大切な臓器が近くにあるがんでは特に有効です。一方、胃や十二指腸、大腸のがんそのものを治療する場合には、陽子線治療以外の治療法を勧めています」(秋元放射線治療科長)
治療回数はがんの種類や部位によって違うが、1日1回、週3~5回で合計4~40回程度と従来の放射線治療よりも少ない回数で終了することも可能だ。1回の治療時間は20~30分で、患者は通常あおむけで寝た状態で照射を受ける。痛みや熱などの苦痛はないので、リラックスした状態で治療が受けられる。
国立がん研究センター東病院で陽子線治療を希望する場合は、医療相談などで受診する以外に事前に担当医師から診療情報を送付してもらい、その内容でおおよその適応の可能性を判断することも可能だ。専門医の診察の結果、従来の放射線治療と効果や副作用が変わらないと判断される場合は、通常の放射線治療を勧めることもある。
放射線治療は保険適用だが、陽子線治療は先進医療で費用は約288万円かかる。先進医療をカバーする民間の保険に加入している場合には、保険より費用が支払われる。
■取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2013年8月9日号