政治家の声をどう捉えるか。日中両国における差はこの点についても大きい。中国に詳しいジャーナリスト・富坂聰氏が指摘する。
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中国を動かしているのは中国共産党である。そして党の最高指導部はといえば、それは政治局常務委員会(常委)の7人(人数は時代によってまちまち)のメンバーである。党中央総書記で国家主席であった胡錦濤や首相の温家宝も常委であることが党の不文律と考えられている。
現在は70歳定年制が浸透しているため頂点を極めた常委の新陳代謝が順調に進み、引退した元常委の表舞台での露出は極端に少なくなっている。
だが、その一方で目立つのが引退後の回想録の出版である。もともと党幹部の回想録や伝記の出版を禁じていたことからすれば隔世の感と言わざるを得ないが、このところの商業化の波に乗り、引退後に回想録を出して印税を稼ぐというのが一つのパターンにもなってきているのだ。
そんななか、どの常委の回想録が最も多いのか、またどの回想録が最も権威のある扱いなのかを検証するという興味深い記事を掲載したのが『南都週刊』である。
結果、最も権威ある扱いなのが江沢民国家主席。最も点数が多いのが李鵬元首相となったというのだ。
権威という意味では、党中央文献研究室が編集を担当して『文選』を出版するのは毛沢東、トウ小平のみということで、それが重要な判断材料になったという。
一方、数で勝負しているのが李鵬元首相。すでに引退後7冊の回想録や著作のある李はそのすべてが違う出版社となっている。
しかし、それにしてもなぜ中国の出版社が争って元常委の回想録を出そうとするのか。その答えは、単純に売れるからだという。当然、引退政治の懐に入る印税も大きい。具体的にその数字を知る方法はないが、李鵬の場合、一冊の本の印税からポンと300万元(4億8000万円)を中国教育発展基金会に寄付して「李鵬基金」を設立してしまったというから、それから類推できる金額は決して小さくないはずだ。