孫の教育資金の贈与税が1500万円まで非課税になる「教育資金贈与信託」が大人気となり、祖父母ら“第1世代”から孫の“第3世代”へ資産を相続する傾向が高まりつつあるが、その際、負担となるのが相続税だ。孫に相続する場合、相続税額が2割加算されることもあり、孫の負担を逆に増やしてしまうことになる。どうしたらいいのだろうか。
最も効果的な対策は、第1世代が死亡する前に相続税の課税対象となる財産を減らしておく「生前贈与」である。「教育資金贈与信託」のブームは、まさにその流れに乗ったものだ。次世代に住宅購入資金を援助する「住宅取得資金贈与の特例(最高1200万円まで非課税)」なども、相続財産を減らすテクニックである。
生前贈与の中でも、節税効果が大きいのが「孫への生前贈与」だ。贈与税には年110万円の基礎控除があり、その金額内であれば贈与税はかからない。祖父母が孫に毎年110万円ずつ10年間贈与すれば1100万円の資産移動になる。孫が4人いれば、10年で4400万円だ。
実際、この仕組みを利用して資産を移動させ、節税効果を高めている人は少なくないが、ファイナンシャルプランナーの藤川太氏は、「ちょっとしたことで、こうした努力も水泡に帰すこともある」と指摘する。
たとえば、孫が大きくなったら渡してあげようと、孫名義の口座を作り、せっせと預金をしている人は多いだろう。実はこんなケースは要注意。贈与というのは、受ける側が理解していないとそれ自体が成立しないからだ。
たとえ口座名義は孫であっても、祖父母が通帳も印鑑も管理していれば、祖父母の財産であり、孫への贈与は成立しない。この状態で祖父母が亡くなれば、相続税の対象となってしまう。それを避けようと慌てて生前に通帳を渡したとしても、その時点でまとめて贈与したとして贈与税の対象となってしまうのが原則だ。
こうした事態を防ぐためには、贈与するたびに贈与契約書を孫との間で結ぶ。孫本人が管理する口座に振り込みし、孫が自由にお金を使える状態にしておけば万全だろう。なお、孫が未成年であれば、その親権者(父母)が孫の代わりに契約・管理し、成人後に孫が自ら管理すればOKだ。
こうして生前贈与が増えると、国は相続税が取れなくなるため、被相続人が死亡した日から遡って3年以内に贈与された財産は相続財産に繰り戻して相続税を計算するというルールが存在する。
「実はここでも孫への贈与が重要な意味を持ってきます。なぜならこの“繰り戻し”をしなくてはならないのは相続人だけなのです。通常、孫は相続人にならないため、第1世代の死亡から3年以内であっても、孫が贈与された財産は繰り戻す必要がなく、節税効果は大きい」(藤川氏)
生前贈与を1世代飛ばしにすることで、相続税を減らす効果があるのだ。
※週刊ポスト2013年8月16・23日号