今年4月1日から施行された「改正高年齢者雇用安定法」。サラリーマンの退職年齢を60歳から65歳に引き上げる、いわば“定年延長”制度だが、企業が頭を抱える社員の高齢化問題は、次なる世代のリストラ・ターゲットを選別する格好の材料にされているフシさえある。
東西の地域会社で計約8万人の社員を抱える巨艦・NTTが大規模な組織再編に乗り出すという。営業や設備の保守点検などで全国に散らばる支店数を減らし、効率的な人材配置をするのが狙いだ。
「これから5000人を超える定年退職者が毎年出るため、働き手の手薄な現場が出てくる。拠点を集約するだけではなく、大幅な人事異動も避けられない」(NTT関係者)
NTTは早くから社員の“いびつな年齢構成”に気付いて手は打ってきたが、その裏には現役世代の賃金を抑制する巧妙な仕掛けがあった。
「これまでNTTは50歳以降、子会社に転籍させる形で給与を減額する代わりに、65歳まで働ける制度をとってきた。それが定年延長によって希望者全員を本社で再雇用する新制度に改め、賃金水準を上げた。
しかし、そこで増えた人件費は『資格手当』や『成果加算』の名目で現役世代の賃金格差で抑制する制度に変えた。結局、新しい賃金体系を導入することによって、65歳まで働いても60歳で定年したときと生涯賃金が変わらない仕組みにしただけ」(経済誌記者)
これはNTTに限った話ではない。いま大量退職のピークを迎える団塊の世代が一斉に抜ければ、組織はスリム化する。そのために体力のある大手企業はある程度の人件費コストは覚悟しているのだ。だが、そのシワ寄せを受けて給料減額ばかりか、リストラの標的にまでされているのがミドル社員だという。
人事ジャーナリストで近著に『非情の常時リストラ』(文春新書)がある溝上憲文氏が話す。
「団塊の世代とともに社員数のボリュームゾーンで突出しているのが、バブル期入社組の40代後半の社員たちです。彼らの中には給与だけ高くて部長や課長を補佐するだけの、いわゆる『部下なし管理職』がたくさんいます。企業はこの年代の余剰人員を何とか外に掃き出したいのです」
内閣府の調査によれば、こうした「企業内失業者」が465万人(2011年)いるとされる。溝上氏は「いずれ40代の“名ばかり管理職”に対するリストラの嵐が吹き荒れる」と危惧する。
「いま話題の『追い出し部屋』で精神的に追い詰められている社員も、その多くが40代です。企業としては戦力にならない不採算部門の社員を職種転換させて別の業務に就かせたいという思いもあるのでしょう。でも、これまで終身雇用でいい加減な評価をつけてきた人に、いきなり職種転換や転職を促がせば反発を食らうのは当然です」
それでもまだ、アベノミクスによる景気回復局面で企業業績が上向きになっているから、問題が先送りされている感はある。だが、「解雇の自由化」はすぐ間近に迫っている。
「昨年、政府(国家戦略会議)が<40歳定年制>を提案したり、産業競争力会議が<地域限定社員>の制度化を提案したりしているのは、非正規雇用の契約形態を変えるだけでなく、正社員のクビも切りやすいようにして、人材の流動化・活性化を狙ったものです。でも、“失業なき労働移動”なんてあり得ません。
40歳以上で専門性やスキルを持たない社員の転職率がいかに低いかは、容易に想像がつきますよね。民間転職サイトの調べではわずか5%足らず。しかし、少しばかり景気が良くなって賃金が上がったからといって、『自分はまだ大丈夫』と余裕で構えていたら、手遅れになることだってあります」(溝上氏)
溝上氏は「今こそ職務の棚卸しが必要」と訴える。確かに、退職金の割り増しや転職市場の回復が望めるときこそ、足元の仕事を見つめ直す契機なのかもしれない。