オウム真理教元代表・麻原彰晃こと松本智津夫死刑囚(58)の“執行Xデー”に注目が集まっているが、彼に極刑が下されたとしても、あの事件の脅威が完全に取り除かれるわけではない。
オウム真理教から改称したアレフを監視対象としている公安調査庁は7月、今年4月以降の教団施設への立ち入り検査時に撮影した画像を公開した。同庁が情報収集過程で得た証拠を公にするのは異例のことだが、そこにはある“異常な光景”が写っていた。
祭壇らしきものの近くで、写真の束がナイフのようなもので串刺しにされていたのだ。しかも、そこには公安調査庁職員や同庁長官、警察官らの写真があったというから、まさに“敵の死”を願うかのような衝撃の光景である。
その串刺し写真の中には、信者の脱会支援に取り組んできた弁護士の滝本太郎氏を写したものもあった。同氏が次のように語る。
「画像から判断すると、これはオウム時代から在籍する最古参信者・N氏が中心となっている滋賀県の道場だと思われます。アレフでの彼は“正悟師”という、麻原の家族を除けば最高の地位にあり、滋賀の信者にとっては絶対的存在です。
私は麻原の『空中浮揚』の嘘などを指摘したことでもともと彼から恨まれていました。今年もN氏から私のブログにクレームをつけられましたが、修正に応じなかったこともありました。正直、怖くないかといえば嘘になります」
公安調査庁によれば、N氏は教団運営に関与する唯一の正悟師として、全国各地の教団施設での説法会開催のほか、自身が手がける事業の物品購入などを名目に、頻繁に海外渡航を繰り返しているという。
そのN氏は2009年5月下旬、信者に対し、次のような指示を出していたという。
「現代は民主主義の時代であり、グルの涅槃を阻止するためには、数の力が必要であるから、1日も早く10万人を入信させよ」
当局は、これを、“麻原の死刑を阻止するため、信者を獲得せよ”という意味ととらえ、注視していた。
実際、その後アレフは新規信者の勧誘活動を積極化。ネット上のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)でヨガ教室に誘うなどの方法で、今年6月時点の信者数は2011年より150人増の1450人になっているという。
こうした教団の勢力拡大の動きがあるなかで、今回発見された串刺し写真はどのような意味を持つのか。ジャーナリストで、参議院議員の有田芳生氏が指摘する。
「監視が厳しく、かつてのような大事件を起こす力はないでしょうが、麻原の教えを引き継ぐ限り、教団に潜在的な危険性はあります。串刺し写真には、その危険性が象徴されているように思います」
さらに前出・滝本氏はこう付け加える。
「今のアレフの中には精神的に不安定になっている信者が少なくない。麻原の死刑が執行された場合に、1人や2人、テロを起こす者が出てくるのではないかと懸念しています」
現在、麻原死刑囚の弁護団は3度目の再審請求中だが、いつ死刑が執行されてもおかしくない状況だ。テロは二度と起こさせてはならない。
※週刊ポスト2013年8月16・23日号