いまだ確立した治療法がない認知症だが、その予防に関する画期的な研究に注目が集まっているという。
まず認知症とはどういう病気なのか、確認しておこう。認知症は、脳内の神経細胞などの変化により、もの忘れを代表とする認知機能の低下が発生し、日常生活に支障をきたす病気のこと。老化によるもの忘れではなく、病気によることが特徴だ。
原因となる疾患別では、アルツハイマー型認知症が約68%、脳梗塞などによる脳血管性が約20%を占め、他に幻視が特徴的なレビー小体病、脳脊髄液の流れの悪化による正常圧水頭症などがある。
合計で全体の9割近くを占めるアルツハイマー型と脳血管性認知症は一度発症すると後戻りできず、根本的な治療法はいまだ確立されていない。
しかし、国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)の鈴木隆雄所長は、最近の研究により「認知症予防に光明が見えてきた」と明かす。
「認知症の主因となるアルツハイマー病や脳血管疾患は一度診断されたら予防が不可能で病状は進行し、長い間、世界の研究者を悩ませてきました。しかし私たちの最新の研究で、MCIの段階で手を打てば、認知症の発症を先送りできるとわかってきたんです」(鈴木所長)
認知症予防のカギとなるMCI(軽度認知障害)とは、認知症と診断されるまでには至らないものの、軽い認知機能の低下が見られる、いわば正常ではない“グレー”な状態のこと。明確な診断基準はないという。
国立長寿医療研究センターのもの忘れ外来の問診票には、以下のような18項目に及ぶ質問が並ぶ。
□物の名前が出てこなくなった。
□だらしなくなった。
□思考が遅くなった、判断力が落ちた。
もちろん、これはあくまで目安で、当てはまるものがあるからといって、必ずしも認知症と判断されるわけではない。
この問診票の他に、医師による診察、認知能力のテストなどにより、同センターではMCIを診断している。
MCIが重要なのは、アルツハイマー病の“前駆状態”とされるからだ。一般の高齢者がアルツハイマー病に進行する割合が年間1~2%なのに対し、MCIは年間10~15%もある。5~6年でMCIの8割がアルツハイマー病を発症するという報告もあるほどだ。
そのMCIが注目を集めるのは、MCIの約4割の人が、5年後に正常な認知機能に回復したという報告があるからだ。
「だからこそ、MCIの時に何を行うべきかが明らかになると、その後の認知症発症予防につながるんです」(鈴木所長)
そんなMCIを、家庭でどう見分ければいいだろうか。同センターの鳥羽研二病院長が解説する。
「最も初期の症状は、同じ話を何度も繰り返しがちになることと、昨晩の夕食を思い出せなくなること。まずはこの2点に注意しましょう。もし同じ話を繰り返すようになったら、『昨晩の夕食は何を食べた?』と確認してみるのも一手です。最も早い症状の後は通常、買い物、料理などひとり暮らしをするための機能が落ちてきます。
親や夫が、それまで作っていた料理を作らなくなった、同じ物を買ってくる、薬をのみ忘れるといった現象が生じたら、『年のせいかな?』と見過ごすのではなく、念のため医療機関に相談することを勧めます」
※女性セブン2013年8月22・29日号