今年6月に発表された厚生労働省の調査結果によると、65才以上の高齢者のうち認知症患者が推計約462万人に達するという。さらに、認知症の前段階とされる軽度認知障害(MCI)も推計400万人で、これを加えると65才以上の4人に1人が認知症リスクを抱えていることとなる。
認知症を予防するために重要なのがMCIの時にしっかり認知症発症予防の対策をしておくことだという。そして、MCIの段階で認知症の発症を予防するキーワードが、「デュアルタスク」だ。
国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)の鈴木隆雄所長らは、2010年5月から100人のMCI高齢者を対象に科学的根拠による大規模な比較試験を行った。
「被験者を『運動を行う』群と『健康講座を受ける』群に分け、半年にわたって試験を続け、認知機能の変化を調べました。世界でも類を見ない研究です。その結果、MCIの状態で有酸素運動や頭を使った運動を続けると、健康教室だけの群に比べ、脳の萎縮を防ぐことができ、記憶力が改善することを日本で初めて確認できました」(鈴木所長)
この試験で実践し、MCIの認知機能を向上することが確認されたのが、頭と体の運動を組み合わせた「デュアルタスク」(ふたつのことを同時に行う)のエクササイズだった。
「人は通常、話をしながらいくつかの考え事や行為を同時に行っています。とくにアルツハイマー病は、こうした“ふたつのことを同時に行う”能力がどんどん失われていき、最終的には食事という根源的な行為まで忘れてしまいます。したがって、MCIの段階でデュアルタスクの能力を維持することは、とても重要なんです」(鈴木所長)
なぜデュアルタスクは効果があるのか。もともと、認知症予防には有酸素運動も、頭を使うことも、効果的だとされてきたと国立長寿医療研究センターの土井剛彦研究員は言う。
「有酸素運動により脳由来神経栄養因子(BDNF)というたんぱく質が活性化し、記憶を司る脳の海馬量を増やすことにつながるとされます。一方で、頭を使いながら運動を行うことで、注意や処理といった脳の遂行機能を担当する前頭葉を効果的に鍛えることができます。この2つを組み合わせることでより効き目のある認知機能アップが期待されるんです」
※女性セブン2013年8月22・29日号