久々のドラマブームといえるかもしれない。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が、その内実を分析した。
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この夏は「半沢直樹」「あまちゃん」の大ヒットで、俄然テレビドラマに注目が集まっています。銀行員の間でドラマが話題になったり。ドラマ視聴が男性にも広く根をおろしつつあることが、この夏の特徴と言えるのではないでしょうか。
ほんの少し前までは、「テレビドラマは女子どもが見るもの」「くだらないから話題にしない」と断定する風潮もありました。私のコラムにもそんな感想が寄せられたりしましたし。ドラマをめぐって今、世の中の気分やメディアの論調が変化しつつある。その変化の早さにはちょっと驚かされます。
見る人の幅が広がった原因を考えてみると……もちろん脚本やテーマ設定も一因ですが、もう一つ。登場する役者や制作陣の「存在感」が作用している、とは言えないでしょうか?
「半沢直樹」の堺雅人。「あまちゃん」のクドカン。まさしく、余人をもって代え難い存在感を放っています。「この人でなければ、この味は出せない」。そう思わせる個性や存在感がテレビドラマの世界を奥深くし、また面白くしているのでは。
堺雅人も、クドカンも、「あまちゃん」ワールドを賑わせている松尾スズキ、荒川良々らクドカンファミリーも、あるいは渡辺えり、片桐はいり、木野花、古田新太も……共通項があります。それはみんな「小劇場」の出身者で、舞台で育ってきている、ということです。
かつて、テレビの中の人気者は、演劇舞台とは離れた場所にいました。特に「アングラ」「小劇場」と呼ばれるマイナー系(テレビ的大御所に対して)は、触ってもいけないし踏み込んでもいけない、いわばアブナイ領域でした。もちろんその出身者が、メジャーなテレビドラマに出ることもごくごく限られていたのです。
テレビ系人気者と、アングラ系舞台とは水と油。メジャーとマイナー、棲み分けていました。
しかし、80年代頃から、その2つの世界を分ける境界線が溶解していったのです。つかこうへい、野田秀樹、蜷川幸雄といったアングラ劇団出身の演出家が、テレビ系人気者をあえてキャスティングし始めます。
今や「セカイの~」と語られる蜷川氏も、40年ほど前は石橋蓮司らと小劇団を結成し、唐十郎の超難解な書き下ろしアングラ劇と格闘していた人。その後、一転して商業演劇へと進出し、東山紀之、二宮和也、松本潤といったジャニーズの面々を臆面なくキャスティング。宮沢りえも小栗旬も、そうやって生の舞台に上がり、アングラ戯曲を通じて磨かれ鍛えられていきました。
生の舞台は怖い。観客の目が突き刺さる。やり直しが効かない。一回性の勝負をかける場所。しかもアングラの代表・唐十郎の戯曲なんて、複雑で猥雑でストーリーは絡まり合い理解は超難しい。その分、アイドルや人気タレントのイメージも破綻してしまう危険性をはらむ。ぎりぎりの緊張感ゆえにまた、眠っている才能は目覚め、磨かれていく。
そうして鍛えられた人気者たちが、いきいきとテレビドラマで主役をはる。そんな時代がやってきた。脇を固める面々も--小林薫、大杉蓮、佐野史郎といったテレビでおなじみのあの人々もみな、アングラ舞台から育った、いぶし銀のような役者たちです。
テレビドラマは今、その意味で一つの黄金期、収穫期を迎えている、と言えるのではないでしょうか。