庶民には一生縁がない“金持ち専用銀行”のイメージがある信託銀行の窓口に、今年4月から新規顧客が殺到している。
目当ては、孫の教育資金の贈与税が非課税になる「教育資金贈与信託」という商品だ。各行が主催する贈与や相続に関するセミナーも大盛況となっている。
三井住友信託銀行では、契約額で約550億円(7月26日時点)、贈与を受ける受益者(孫)ベースで約8160件の契約を獲得しているという。
「1日当たり100件以上のペースで申し込みがあり、その約半数が新規のお客さまです。かつて信託銀行では『ビッグ』や『ヒット』といった信託金融商品が人気を集めましたが、金利目的以外の商品でこれだけ申し込みがあった例はありません」(リテール企画部商品企画チーム長の品田英一郎氏)
教育資金贈与信託は、祖父母(委託者)が孫(受益者)に贈与したい教育資金を信託銀行に預け、受益者は支払った学費などを信託銀行から受け取る仕組みだ。信託協会が数年前から政府に要望を出していたが、アベノミクスの一環として、今年2月の税制改正により、急遽4月1日から発売が可能になった商品である。
「30歳未満」の受益者1人当たり1500万円までが非課税となり、実際に委託者が預ける金額は「平均1000万円」(三井住友信託銀行の場合)に上るという。
また「学費」といっても学校の入学金や授業料だけでなく、「部活動費用」や「学習塾・予備校の学費」、さらには「ピアノ教室」などの習い事、「自動車教習所」の支払いなども対象になる(塾や習い事など教育機関以外に使える金額には500万円の上限が設定されている)。
ブームになった理由の一つは、「節税効果」だ。これまでも年間110万円までの贈与は非課税で、授業料などその都度支払う教育資金も非課税だった。しかし、教育資金贈与信託の場合は、最大1500万円まで一括贈与しても非課税となり、教育資金という目的を明確にした贈与ができるからだ。つまり、「資産防衛」のメリットである。
しかし、それ以上に契約者の心を掴んだ理由は、「孫のためにお金を使いたい」という高齢者のニーズと合致したからだろう。
「委託者の年齢は70代以上が多いですが、孫が誕生したばかりの60歳前後の方もいらっしゃいます。『孫の教育のために一括して贈与でき、塾や習い事にも使えるなど使い勝手もいい』といった声がよく聞かれます」(前出・品田氏)
※週刊ポスト2013年8月16・23日号