核実験やミサイル発射実験で国際社会を挑発し、その後交渉に転じて譲歩を引き出そうとする金正恩第一書記。このような国家運営は、いつまでも続けられるものではない。『北朝鮮はどんなふうに崩壊するのか』(小学館101新書)を上梓したジャーナリスト・惠谷治氏は、金正恩体制崩壊の予兆とも言える同国内の異変をキャッチした──。
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金正恩の父・金正日は人民の怒りを買わぬよう、自身の私生活を巧妙に隠し続けた。一方の金正恩は妻・李雪主と一緒に牡丹峰楽団の公演を観覧するなど、表層的な繁栄を演出することに熱心だ。慢性的な食糧難に苦しむ人民には理解を示さない。
「現在、食糧事情が緊迫しているのは、人民たちがご飯にだけ執着していて、パンを食べても食事ではないと感じているからだ。他の国に比べて、食糧として使われる穀類消費量がとても多い」
金正恩は以上のように言明し、さらにこう語ったという。
「我が国の人民たちに料理の知識がなく、料理をうまく作って食べることができないなら、料理法を録画編集したDVDを製作すればいいだろう」(韓国の月刊誌『新東亜』2013年4月号)
それで食糧難が解決できるなら苦労はない。まるでフランス革命でギロチンにかけられたマリー・アントワネット王妃の「パンがなければ、菓子パンを食べればいい」という言葉のようだ(ただし、アントワネットの言葉は創作されたものだと判明している)。
※SAPIO2013年9月号