独自の“がん思想”を綴った著作はどれもベストセラーになり、自身の外来にはがん患者が殺到する。慶應義塾大学病院放射線科の近藤誠医師はいま、がん治療に悩む日本中の患者を救う救世主となっている。「白い巨塔」で25年もの間、不遇をかこつ身である近藤氏は、なぜ信念を曲げずに闘い続けることができるのか。
「がんは放っておいていい」「抗がん剤は効かない」「末期がんでも痛くない」などの主張で、がん治療の常識をことごとく覆してきた近藤氏。2012年12月に出した著書『医者に殺されない47の心得』(アスコム刊)は100万部に迫る大ベストセラーになっている。
「出版のタイミングで、歌舞伎の中村勘三郎さんが亡くなった。本のタイトルはちょっと過激かなと感じていましたが、むしろ時宜にかなったものだと思いました。彼に対する治療への疑問を月刊誌に書いたら大反響で、すごい勢いで増刷が続きました」(近藤氏)
しかし、“近藤理論”への注目は、いまに始まったことではなく、これは“第2次ブーム”ともいえる。近藤氏はこれまでに何度も医学界に論争を巻き起こし、1996年の著書『患者よ、がんと闘うな』(文藝春秋刊)では、日本のがん治療の問題点を真正面から指摘した。同書もベストセラーとなり、すでに「がん放置療法」という近藤理論を実践してきた患者も多い。
Aさん(60代・男性)は5年前に人間ドックで大腸がんが見つかった。
「医師には手術と抗がん剤治療以外に選択肢はないと言われました。疑問を抱きながらも抗がん剤治療を受け、副作用に苦しんでいる時に出会ったのが近藤先生の著書でした。すぐに治療を中断したのですが、その後がんは大きくならず、治療による苦痛から解放されました。いまも普通に生活できています」(Aさん)
現在、がん治療は「手術」「抗がん剤」「放射線」が標準治療となっている。もちろん医師たちは、そのなかから患者にとって最善の方法を選んで提示しているはずだ。しかし、そうした努力にもかかわらず、がんは日本人の死因の第1位であり続けている。
治療技術は向上の一途をたどっているはずだが、なぜがん死は減らないのか。近藤氏が言う。
「それこそががん治療がいらない理由です。がんに限らず、医者や製薬会社、医療機器メーカー、官僚らは、医療のパイを大きくして利益を得たいがために“患者増産策”を取り、必要のない治療や薬を患者に押しつけてきた。患者や家族の間には“本当にこの治療が必要なのか?”という根強い不信感がありましたが、彼らに本当のことを言ってくれる医者がいなかったのです」(近藤氏)
※週刊ポスト2013年8月16・23日号