一芸に秀でたプロ野球選手に、得意分野とは真逆の質問を投げかける野球雑誌『野球小僧』(白夜書房)の名物企画「俺に訊くな!」。昨年、残念ながら『野球小僧』は休刊してしまったが、小誌はリスペクトを込めてこの企画を復活させて頂く。
2215試合連続出場という、当時の世界記録を樹立した“鉄人”衣笠祥雄氏(66)。他にも通算安打2543本(歴代5位)をはじめ輝かしい記録を持つが、同じく歴代十傑にランクされているのが1587の三振記録だ。現役時代の豪快なフルスイングは、「三振も覚悟のうえ」と映ったものだが、逆に三振しないようにすれば、できたのではあるまいか。世界の鉄人におそるおそる聞くと……。
「三振しないのは簡単ですよ。初球から打っていけば、3つのストライクのうちに前に飛ぶ確率は高いし、アウトになってもいいなら、三振はゼロ。タイプとしては、早いカウントから積極的に打っていくバッターは三振が少ない。イチローも青木もそうでしょう?」
じゃあ、衣笠氏はどうしてそうしなかったの?
「それは僕が不器用だったから。自分のスイングしかできないし、左方向に引っ張りたいバッターだから、引っ張れる球が来るまで待つ。早いカウントで外に甘い球がきても、引っ張りきれないと思えば手を出しませんからね。だからこそ、2ストライクに追い込まれて、ボール球を振らされたり、落ちる球で空振りさせられたりしたんだと思う」
一方、衣笠氏が大打者になれたのは、実はそうした三振のおかげだともいう。
「ただ当てるだけのバッティングをしたら、自分ではなくなりますからね。一軍と二軍を行ったり来たりしていた20歳の頃、僕は自分のセールスポイントは何かを考えて、レギュラーになるために“年間20本ホームランを打てば試合に出られるだろう”と、三振を恐れずにフルスイングする道を選んだ。おかげで504本の本塁打を打てたわけで、その代償に三振があるという言い方もできますね」
じゃあ、三振してもいいんだ……。
「いやあ、望んで三振する必要はないと思うけど(笑い)。でも、自分のスタイルは大切にしてもらいたい。選手が自分のスタイルを貫いていないと、見ているほうがつまらないからね」
※週刊ポスト2013年8月16・23日号