東京電力・福島第一原発の汚染水対策はなぜ遅れたか。
「原発周辺の地下に遮水壁を構築すべきだ」という指摘は事故の後、かなり早い段階から出ていた。いままで先送りされてきたのは、東電が巨額の建設費用にたじろいで「会社がつぶれてしまう」と反対したからだ。
遮水壁の構築について、菅直人元首相はブログで「政府と東電の統合対策本部に検討するように指示しました。約一千億円かかるということで東電が難色を示し、残念ながら今日まで部分的な対策しかとられていません」と認めている。では、どうして政府にできなかったのか。ここが核心である。
民主党政権は「まず東電の存続ありき」で、被災者への賠償も除染も国が費用を一時立て替えし、後で東電が長期返済するスキームを作った。それが間違いの元だった。
東電存続を前提に事故処理策を組み立てたから、東電には会社がつぶれるような対応を迫りにくい。といって、政府が東電をつぶさず、株主と銀行の責任を問わない以上、東電に代わって国が前面に出るわけにもいかない。
そんなことをすれば本来、真っ先に問うべき株主と銀行の責任を棚上げして国民につけを回す形になってしまうからだ。その分、国民負担は増える。
結局、民主党政権は「カネがないから遮水壁を作れない」という東電の言い分を容認せざるを得なくなった。元首相でありながら、まるで人ごとのような菅の話は「最初に政府が間違ったから、対策が十分できませんでした」という告白だ。汚染水流出の真の原因は政府の失敗である。
(文中敬称略)
文■長谷川幸洋(ジャーナリスト) 東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。政府の規制改革会議委員、大阪市の人事監察委員会委員長も務める。近著に『政府はこうして国民を騙す』(講談社)。
※週刊ポスト2013年8月30日号