「酒離れ」が進むなか、年間10万ケースを突破して話題のワインがある。作家の山下柚実氏がメルシャンのワイン『エブリィ』開発の内幕に迫った。
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話題を集めるワインの名前は『エブリィ』。夏でも冬でも、和食でも洋食でも、とにかく「毎日」ワインを楽しんでほしい、という提案だ。
「ワインについて消費者調査をすると、『何を選んでいいのかわからない』『種類が多くてとまどう』という声が目立ちました」とメルシャン・マーケティング部の宮本明子さん(37)は口を開いた。
「特にワインの飲用頻度が少ないお客様にとって、ワインは日常的なお酒ではなくて、パーティや特別な時に飲むお酒。そんなイメージにとどまっているのでしょう」
ワインのラベルは横文字で、ブドウの種類にワイナリー、収穫年に産地と、バリエーションが多い。記憶するのも一苦労だ。ワイン好きはその複雑さを楽しんでいるわけだが。
「開発にあたり、私たちは『ワインの日常化』をテーマにしました。商品選択の難しさに対するお客様のバリアを排除するために、エブリィというわかりやすいネーミングを含めてワイン本来の楽しみである香りや味わいといった魅力を伝えたい。それが開発のコンセプトになりました」
「毎日」の食卓で親しんでもらう。言うのは簡単だが、実はものすごく難しい。
「ワインの日常化に対するバリアはいくつかあります。たとえばコルク。開けるのが面倒、うまく抜けないというお問い合わせが入ります。道具がないと開けられない飲み物って、他にはありませんから」
たしかに。第1次ワインブームと言われたのが1972年。それから40年以上が経過しているのに、いまだに「開栓」はバリアとなっているのだ。エブリィでは、スクリューキャップを採用した。
ワイン作りにとって、味や品質は最も大切なポイントだ。だが、もう一つ、ワインの保管に関する消費者の行動様式に迫ったことが勝因につながった。
「国産デイリーワインを飲用するお客様は、四季を通じてワインを冷やして飲んでいることがわかりました。スクリューキャップの場合は、飲み残しを冷蔵庫に保存するといったご意見もありました。となれば、冷やして飲んでもおいしいワインだということが非常に重要になります」
一般的に、ワインは冷やしすぎると味や香りが変化してしまう。しかしエブリィは冷えても常温でも香りたつワインを追求した。
栓が変わるだけで、飲み方も変化する。多くの人が冷蔵庫に入れるという同じ行動をとる。開け方一つによって人の動作や意識が決められていく、という発見。容器という「モノ」の形や使われ方の中にも、ワインの中味をどう作ればよいかのヒントが隠されていたのだった。
※SAPIO2013年9月号