都心を中心に大型マンションが発売ラッシュを迎えている。7月の首都圏の新築マンション発売戸数は5306戸。前年同月比で3割も増えたという(不動産経済研究所調べ)。アベノミクスによる景気回復の兆しを受け、まさにマンションブームが訪れているのだ。
マンション業界のトップランナーは、これまで三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンス、住友不動産といった財閥系が中心だった。ところが、2012年度に5111戸を供給してシェアトップに躍り出たのは、売上高で三井のおよそ3分の1しかない野村不動産である。
野村不動産がここまで躍進できたのはなぜか。住宅評論家の山下和之氏が語る。
「10年前から基幹のマンションブランドを『PROUD(プラウド)』に改め、高級イメージを前面に打ち出してきました。都心周辺や山手方面、また新浦安など人気の高いエリアに集中投下することで財閥系に負けないブランドイメージを確立したのです。いまや東急などは完全にブランド力で抜かれてしまったので、焦っているようです」
「プラウド」の販売価格は3000万円~7億円と幅広いが、同社広報部によれば「平均価格は5000万円台、購入層の平均年齢は800万円前後で都心になれば1000万円を超える」という。やはり、昨年末から続く株高による資産効果で、より高額な物件に人気が集中しているのか。
「確かに1億円以上のマンションを買う人はそれなりのストックを持っています。会社経営で自社株の含み益を得た人などもいます。ここ1年の最高価格は『プラウド南麻布』の4億円で完売しました。でも、全体に占める億ションの割合は2%程度ですし、一部の富裕層がマンションのマーケットを動かしているわけではありません」(北井大介・野村不動産ホールディングス広報IR部長)
その証拠に、同社は2011年より2000万円台から購入できる郊外型の割安ブランド「OHANA(オハナ)」を供給し始めた。こちらは年収400~600万円で初めてマンションを買う層をターゲットにしている。プラウドで培ったブランド力やノウハウを「オハナ」にも部分的に移植させることで、二極化するマンション需要を取り込む戦略である。
いくらブランドや価格のバリエーションを増やしても、最終的に物件が売れなければ在庫リスクを抱え込むことになるのがマンション業界の難しさである。だが、野村不動産のマンションは即日完売するところが多く、完成在庫の数が極めて低いことで知られる。
その秘密は、開発から販売まで同じ組織で手掛ける「製販一体」のビジネスモデルにある。
「三井や三菱は本社に販売部隊を持たずに販売代理を使っていますが、野村は原則的に直接本社の販売部隊が営業を担当します。販売現場が自社物件について熟知しているので、ユーザーの信頼感を得やすいメリットがあるのです。そのおかげで契約率は他社が70%台のところ、野村は80%台といわれています」(山下氏)
仕入れた土地を営業部隊の声も取り入れながら素早く事業化し、短期間で売り切って次の開発資金に回す。こうすることで、「景気の変動要因を受けずにリスク回避できる」(広報部)という。
今後も景気回復基調による金利の先高観などによってマンション需要は続くと見られているが、その一方で消費税増税後の“腰折れ”懸念もある。野村不動産は先々の市況をどう読んでいるのか。
「消費増税前の駆け込み需要などといわれますが、増税分が上乗せされても住宅ローン減税の拡大で戻ってくる額も大きいので、急いで購入しようという雰囲気はありません。
それよりもマンションは立地や間取り、価格帯によって2つと同じ物件はありません。いま、都心部でも一戸建てからマンションに住み替えたいというシニア層が増えていますので、そうした方々にいかにベストなタイミングでよりニーズに応えたマンションを供給できるかも、大事な戦略になってきます」(前出・野村不動産HDの北井氏)
今後も他のデベロッパーと共同で販売する高層タワーマンション「Tomihisa Cross(新宿区・993戸)の竣工(2016年3月期予定)を控えるなど、大型プロジェクトを多数抱える野村不動産。拡大路線とブランド価値向上のバランスをどう図っていくのか。マンション人気のトレンドとともに注目したい。