「がん放置療法」を唱え、100万部に迫るベストセラー『医者に殺されない47の心得』(アスコム刊)著者である慶應義塾大学病院放射線科の近藤誠医師は、抗がん剤の効果についても否定的だ。
手術にしても、放射線治療にしても、まず抗がん剤でがんを小さくしてからのほうがいい、という考え方から、日本では抗がん剤治療が当然のように行なわれている。だが、近藤氏は、日本人のがんの9割を占める胃がん、肺がん、大腸がん、乳がんなどの「固形がん」には抗がん剤は効かないと近藤氏は主張する。
「抗がん剤にはがんを治す力もないし、延命効果もない。あるのは過酷な毒性だけ。使えば使うほど寿命が縮まります」(近藤氏)
さらに近藤氏は抗がん剤の治験データの有効性そのものが疑わしいと言うのだ。
「僕はすべての抗がん剤の治験データを分析したが、生存曲線に人為的操作が介在するなどのインチキがあります。すべてにです。高血圧の薬で京都府立医大グループの治験データが問題になりましたが、抗がん剤の論文を見ると、製薬会社の社員の名前が堂々と著者欄に並んでいるんです」(近藤氏)
抗がん剤も分子標的薬も、細胞を殺す薬であることに変わりはない。激しい副作用が伴うのもそのためで、
「抗がん剤によってがんが小さくなることもあるかもしれないが、それ以上に正常細胞のほうが薬が効きやすいので、かえって身体を痛めることになる」と近藤氏。とくにがんが“がんもどき”(※転移しないがん)だった場合、辛い抗がん剤治療は「まる損」になる。
しかし、抗がん剤を使用している医師の実感は異なるようだ。
「末期の卵巣がんで、腹水がたまってお腹がパンパンになっていた患者さんが、抗がん剤治療で治ったこともある。統計的にも、末期(IV期)がんでも5年生存率はゼロではない。治る人がいる以上は治療すべきだと思います」(婦人科がんに詳しい総合病院産婦人科部長)
また別のベテラン医師も、「臨床経験から、乳がんの抗がん剤の延命効果は証明されている。肺転移で余命いくばくもない患者さんが、抗がん剤治療で腫瘍が劇的に小さくなり、症状も改善され、1年以上も延命しているケースもある」
と指摘する。ただし、前出の産婦人科部長は、近藤理論に一定の理解も示す。
「大切なのは抗がん剤によってよくなるかどうかを、医師が見極めること。なかには抗がん剤がまったく効かない人もいる。そういう人にまで抗がん剤を投与するのは、近藤先生の言うようにいたずらに患者さんを苦しめることになり、デメリットのほうが大きくなる」
※週刊ポスト2013年8月16・23日号