昨年、残念ながら休刊してしまったものの、未だに根強いファンを持つ『野球小僧』(白夜書房)の名物企画「俺に訊くな!」。一芸に秀でたプロ野球選手に、得意分野とは真逆の質問を投げ掛ける名物企画を、リスペクトを込めて復活させて頂き、シュートの達人として知られる平松政次氏(65)に「カーブの投げ方」を聞いた。
150キロ近い直球に加え、右打者の胸元を抉るその球で、平松氏は通算201勝を稼いだ。カミソリシュートは魔球と称された。でも今回は──カーブの投げ方を教えてください。
「……(一瞬の沈黙)、ハハハ、面白いこと聞くね」
シュートを投げられたならカーブ投げられますよね。
「そりゃ野球の基本だもの、真っ直ぐとカーブはね。高校時代は投げてましたよ」
では、凄いカーブを?
「いや~それがションベンカーブだったの。キレが悪いんだよ。それを見た高校の監督に『真っ直ぐだけで抑えてこい。でないとプロに行けるわけない』と怒鳴られた。だからとにかく相手のバットに当たらないようなコースに速球を投げこんでいましたよ」
カーブが投げられないことで結果的に直球が磨かれることになったと平松氏はいう。だが、それだけで通用するほどプロは甘くない。
「カーブも試したけどホリ(堀内恒夫氏)のようなドロップにはならない。もちろん投げる努力をしたし、巨人の藤田(元司氏)に教えを乞うた。でも、結局曲がらなかったんですよね」
現役時代はカーブを習得できなかったが、引退後、ネット裏から投手を眺めていると、あることに気付いたという。
「肘なんですよ。カーブを投げる投手は肘の使い方が上手いんだよ。ボクの投球は、肘をほとんど使わず上から振り下ろすようなアーム式と言われるもの。シュートにしても手首や肘を捻らない。左肩を早く回転させることで腕が遅れ、球をシュートさせていた」
ボクのアーム式だとカーブは無理だったろうな、と平松氏はしみじみ思い返す。では、もし現役時代カーブを習得していたなら?
「あと40~50勝はできたでしょう……でもね、そればっかりはわからないな。カーブを投げる人ってフォームは綺麗だけど肘を壊しやすい。ボクは酷使されたけどよく最後までやったと思う。自慢じゃないけど甲子園優勝投手で唯一200勝を挙げた投手なんだからね」
そう誇らしげに語る平松氏に最後に聞いてみた。それでカーブを投げるにはどう肘を使えばいいんですか。
「ホリに聞け(笑い)」
※週刊ポスト2013年8月16・23日号