アメリカの個人情報収集活動の実態を暴露し、世界を震撼させた元CIA職員のエドワード・スノーデン氏。ロシアへの一時亡命が認められるまで、モスクワの空港に1か月以上の滞在を強いられた。しかも、1年間の一時亡命はロシア国内におけるスノーデン氏の身の安全を保証するものではない。作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏が解説する。
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6月下旬、スノーデン事件が発覚した直後に、短期出張で訪日した中東某国の元対外インテリジェンス機関幹部は筆者に、
「米国はスノーデンの裏切りを絶対に許さない。スノーデンは最終的には恐らく中南米に亡命するであろうが、少し時間をかけてCIAはスノーデンを拉致し、米国に連れ戻し、公開の裁判にかける。そして、国家を裏切った者を徹底的に断罪する。相当、厳しい判決になる。禁錮200年は覚悟しておいたほうがいい。200年だと長すぎて非人道的なので199年になるかもしれない。いずれにせよスノーデンは一生、刑務所から一歩も出ることはできない」
と述べた。筆者が、
「ロシアだったら裁判にかけるなどという面倒なことはしない。自殺か交通事故を装って殺してしまうと思う」
と感想を述べると元幹部は、
「佐藤さん、米国は人道主義の国だ。暗殺のような非人道的なことはしない。何事もオープンに行なうことを考える。スノーデンは、NSAの契約職員としてシギント(Signal Intelligence=通信、電磁波を媒介とした諜報活動)に従事しているうちに、国家がなくても人類は生きていくことができるというアナーキズム思想を抱くに至った。
裏切りの原因となったこの思想を公開の場で裁かなくてはならない。裁かれるのはスノーデン個人ではなく、インテリジェンスと本質的に敵対する思想だ」
と答えた。
スノーデンは、米国を敵に回して闘う強靱な意志力を持っている。もっとも同人はCIAに勤務していたにもかかわらず、シギントの技術的作業にだけ熱中していたために、インテリジェンスの世界の本当の恐さを知らないだけなのかもしれない。
※SAPIO2013年9月号