核実験やミサイル発射実験で国際社会を挑発し、その後交渉に転じて譲歩を引き出そうとする金正恩第一書記。だが、その手法は限界に達している。すでに金正恩体制崩壊の予兆とも言える異変が生じている。『北朝鮮はどんなふうに崩壊するのか』(小学館101新書)を上梓したジャーナリスト・惠谷(えや)治氏が、リポートする。
* * *
北朝鮮では政治犯の強制収容所のことを「管理所」と呼ぶ。咸鏡北道会寧市にある「22号管理所」は、JR山手線の内側の3倍の面積という広大な敷地で、ごく最近まで1万5000人ほどが収容されていたとされる。
ところが、今年に入ってこの収容所から「囚人が消えた」という情報が流れているのだ。消えた囚人たちは各種軍事施設の建設に動員された、細菌兵器や化学兵器の生体実験に使われた、といった噂もあるが、真相は今のところ不明である。
いずれにせよ、金正恩が自らの欲望を満たし、繁栄を偽装するために、この収容所を解体したものと考えられる。北朝鮮の強制収容所廃絶運動を続ける国際団体「NO FENCE」の宋允復(ソンユンボク)・事務局長は、私にこう語った。
「22号管理所の保衛員の親族から得られた情報では、2010年頃から当局による22号管理所からの食糧の持ち出しが頻繁になり、囚人が大量に餓死していたといいます。金正恩は平壌のマンション群や遊園地、水族館の建設など大型プロジェクトに多大な浪費をしている間、その埋め合わせのために、強制収容所からさらに収奪を進めたと考えられます」
※SAPIO2013年9月号