アベノミクス効果で景気回復に明るい兆しが見えてきたことで、巷では「80年代に起きたようなバブルが再来するのでは?」との待望論まで出るようになった。
ところが、「実体経済を伴わない景気拡大は、いずれ手痛いシッペ返しを食らうことになる」と警告するのは、近著に『バブルの死角 日本人が損するカラクリ』がある大阪経済大学客員教授の岩本沙弓氏だ。消費税増税となれば2016年に日本経済は腰折れすると予測する岩本氏に、最悪のシナリオを聞いた。
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――アベノミクス効果による景気回復期待はより高まっている。岩本さんは日本を含めて世界中が未曾有のバブル期に突入すると予測している。
岩本:リーマン・ショック以降、アメリカや日本を筆頭に、先進諸国は金融緩和を続けてこれでもかというほどの余剰資金を市中にバラ撒いています。過去数十年にわたって、バブルが崩壊するたびに過剰な資金が市場に放出されてきました。前回のバブルのツケを次のバブルで回収するようなこうした方策が正しいのか、果たして永遠に続けられるものなのか、私は非常に疑問と考えています。
今回も過剰に出回るペーパーマネーによって過去のパターンを踏襲すれば、3年程度は景気が支えられるかと思いますが、実体経済の本質的な増強がなければ、ただのバブルで終わってしまいます。
特に日本の場合はアメリカ経済に引きずられますので、アメリカの景気が良くなればもれなく日本も良くなります。各経済指標をみると、アメリカは昨年12月をボトムに、現在ピークに向かって景気が上向きの状況なので、タイムラグを考え合わせても日本は好況期を迎えるでしょう。米国自体がバブル化する可能性もあります。
――しかし、そのバブルも3年で崩壊すると?
岩本:実体経済の成長を伴った素晴らしい景気回復であれば、海外のバブルが崩壊しても日本の痛手は少ないのですが、金融部門だけ、あるいは一部の資産価格だけが高騰するような状況となれば、史上最大の資金量によってもたらされたバブルゆえに、暴落も史上最大になるのではないかと危惧しています。
仮に来年4月の消費税増税が見送りになったとすれば、次の引き上げ予定は2015年10月。そこで一気に10%に引き上げられれば、翌年から日本経済は相当な痛手を被るのではないかと懸念しています。
――先ほどの論でいえば、アメリカはじめ世界中もバブル崩壊に喘ぐことになる。
岩本:過去のアメリカ大統領選とあわせてみても、クリントン氏のときは2期目の後半でITバブルがあって最終年度に崩壊。ブッシュ氏のときも後半に住宅バブルが発生して最終年度でクラッシュ。そう考えると、オバマ大統領もこの3年好景気に沸く可能性がありますし、となれば最終年度に景気が怪しくなっても不思議はありません。
また、ユーロ圏の金融市場をみると、LTROと呼ばれる金融緩和によって3年物の資金供給が行われました。これで欧州の財政危機はひとまず治まっている格好ですが、時間を買っただけでユーロの抱える本質的な問題が解決されたわけでもありません。この金融政策で供給された資金の満期が2015年に来ますので、その時期以降再びユーロも危なくなる。あらためて通貨再編の動きも出てくるのではないでしょうか。
つまり、ユーロがおかしくなり出して、日本は消費税で米国はバブル崩壊で2016年に深刻な状況となりかねないというシナリオが想定できるのです。もちろん必ずそうなるとは言い切れませんが、今後世界的に景気が上向けば上向くほど、最悪の事態を想定して身構えておくことは大切でしょう。
――今回は80年代に起きたバブルとどこが違うのか。
岩本:あの頃は中間層が厚く、バブルの恩恵を受けた人も多かったのですが、いまは非正規雇用者が全労働者の4割もいて所得格差はすでに広がっています。中間層が没落しているために、一部の富裕層マーケットが盛り上がったり、規制緩和で外資参入がしやすくなったりして盛り上がることはあっても、一般庶民とは全然関係のない世界で起こることとなっています。
――とはいえ、庶民もなけなしの資産を株式や為替への投資で増やしたいと思っている人も多い。どうすればいいのか。
岩本:相場をやってきた人間からアドバイスするならば、相場取引は確率のゲームにすぎません。買ったものは必ずどこかで売り、売ったものは必ず買い戻す。そうしなければ実現益は残りません。したがって、外貨預金でもFXでも投資信託でもなんでもそうですが、投資をまさに始めた時点で、どのタイミングで売るかという“出口戦略”が決められないのであれば、参入するものではありません。
たいがいの人は「株が上がりそうだから」という雰囲気にのまれて買い、盛り上がって上昇しているときは嬉しくなってそのままにし、売るタイミングを逃してしまいがちです。逆に、一度価格が下がり出すと、どこまで下がってもストップロス(損切り)ができないままでいます。それでは最終的には損しか残りません。
盛り上がっている時、下落をしている時に判断をするのではもう遅いのです。その瞬間になかなか冷静に判断できる人はいないと思います。相場に入る前からシナリオを組み立てる必要があります。
――投資どころか、日々の生活費を賄うのに精一杯で貯蓄もままならない国民は多い。物価上昇に伴うインフレ誘導や、消費税増税による財政再建といったアベノミクスの景気拡大策は諸刃の剣となる。
岩本:消費税が上がるということは、可処分所得、つまり実質的な手取りであり、自由に使えるお金の中で、払わなければならない金額が増えることになりますからね。低所得者だけでなく中間層もますます苦しくなるでしょう。
景気の上下動の蚊帳の外に置かれた低所得者層は、何も恩恵を受けられないのに、バブルが崩壊した後の経済疲弊は一律に受けて、さらに生活が困窮する。
そうならないためにも、目先のバブルに踊らされずに、雇用不安の払拭や内需拡大策を早急にやるべきです。この先日米経済が実体経済の拡大を伴わないような景気浮揚に終始するなら、やはり2016年以降の深刻な景気後退期に備える必要があります。
【岩本沙弓/いわもと・さゆみ】
経済評論家、金融コンサルタント。1991年から日米豪加の金融機関でヴァイスプレジデントとして外国為替、短期金融市場取引業務に従事。現在、金融関連の執筆、講演活動を行うほか、大阪経済大学経営学部客員教授なども務める。近著に『バブルの死角 日本人が損するカラクリ』(集英社新書)などがある。http://www.sayumi-iwamoto.com/