靖国神社への参拝をかねがね公言してきた安倍晋三首相だが、今年8月15日の参拝を結局見送った。
だが、小泉純一郎元首相は「終戦記念日に靖国神社に参拝する」と公約し、首相就任初年は8月13日、その後も正月や春と秋の例大祭など毎年参拝し、首相在任最後の年の2006年には8月15日に参拝した。その背景には当時のブッシュ大統領との強固な信頼関係があった。ブッシュ政権は、中国、韓国の反日ロビー活動に耳を貸さなかったのだ。
それに比べて、安倍首相はアメリカとの関係が危うい。オバマ政権は安倍首相のタカ派色を警戒し、日米首脳会談は何度も延期された末、ようやく1回会ったきり。対照的にオバマ大統領は訪米した習近平・中国国家主席や韓国の朴槿恵大統領を手厚くもてなし、「日本より中韓重視」の姿勢を鮮明にしている。
中国の経済力や軍事力が高まり、米国に対するプレゼンスが大きくなっているとはいえ、安倍首相が靖国神社を参拝するつもりだったとすれば、アメリカの世論対策をはじめ、国際的な宣伝や外交的根回しをもっと周到にする必要があった。
米議会の調査レポートで安倍首相が「ウルトラナショナリスト」と決めつけられたこと自体、安倍政権が中韓との情報戦に完敗していた証拠だ。米議会調査局は、8月2日にも、安倍首相が終戦記念日に靖国参拝すれば、「北東アジア地域の緊張が激化する可能性がある」と指摘するレポートを出している。無惨なまでの日本の「敗戦」である。
外交評論家の加瀬英明氏は、「安倍首相はとにかく中国との関係修復に腐心している」と分析する。
「安倍首相の靖国参拝見送りの最大の理由はアメリカの支持が得られなかったからでしょう。米国は今後10年間で軍事費を大幅に削減することになっており、アジアより中東に軍備を集中させておきたい。そのためには日中関係に緊張が高まるのは困る。だから安倍首相に『中国を刺激してはならない』と再三、忠告している。アメリカの支持がないとわかった以上、安倍首相も参拝を見送って中国との関係修復へと舵を切ったわけです」
それは何を意味するのか。──安倍首相は後ろ楯であったはずのアメリカからこういわれたのだ。「中韓のいうことを黙って聞いてやれ」。すると安倍首相は“アメリカにいわれたなら仕方がない”といわれるままに従い、今度は「中韓のポチ」となってしまったのだ。
※週刊ポスト2013年8月30日号