がん放置療法を唱える慶應義塾大学病院放射線科の近藤誠医師。“本物のがん”は、手術しようとした段階ですでに他に転移して潜んでいるため、切除手術をしても無意味。がんもどきは転移しないため、そもそも切除する必要がないというのが近藤氏の理論だ。それどころか、
「手術は患者の体を切り裂いて痛めつけ、体を弱らせて命を縮めてしまう。手術の後遺症で辛い生活を余儀なくされることも多い。そのうえ、術死のリスクもある。患者が術死しても医者は“がんで死亡した”というので、その実態が知られることはありません。また、臓器転移がある場合は、手術するとかえって再発しやすくなってしまう」
と指摘する。再発しやすくなる理由は、手術によって「局所転移」が発生してしまうからだ。
局所転移が生じる原因のひとつは、切除しきれなかった微小ながん細胞が増殖することだが、もうひとつこんな原因もあるという。
「すでに臓器に転移しているということは、がん細胞が常に血中に浮遊している状態にあるということ。メスで傷ついた箇所には傷を修復するためにさまざまな血球が集まり、血管が新しく作られて、酸素や栄養が豊富な、がん細胞の増殖に適した環境になっている。そこに浮遊しているがん細胞がとりついて増殖するのです」(近藤氏)
しかし乳がんに詳しい総合病院外科部長は、次のように手術の必要性を説く。
「マンモグラフィーで見つかるしこりになる前段階の乳がんの約3割は、一生放置しても問題ないとされている。しかし、7割が致命的になる可能性があり、手術したほうが安全です。まして通常のしこりで見つかるような乳がんを放置すると皮膚に浸潤し悪臭、出血を起こすようになり、最終的には死に至ります」
リスクを抱えたまま生きるのも、患者にとってストレスになる。そのストレスと、治療しなくてもいい安心感とどちらが大きいか。
※週刊ポスト2013年8月16・23日号