ステーキ、焼き肉といった高価格メニューの売れ行きや、客単価の高い寿司チェーンの好調などを受けて外食産業に活気が戻っている。「脱デフレ」の兆候を追い風に、徐々に消費者の財布のひもは緩んできた。
一方で苦戦を強いられているのが、これまで低価格を売りにしてきたファストフード業界。中でも“デフレの王者”といわれたハンバーガーチェーンである。最大手のマクドナルドは単価の高い期間限定バーガーや黒トリュフを使った「1000円バーガー」などを発売して盛り返しを狙うが、2期連続の減収減益も避けられない情勢となっている。
業界トップの失速を後目に、にわかに攻勢をかけているのが、モスバーガーを展開する業界2位のモスフードサービスである。もともと1972年の創業以来、具材の高品質を貫いて度重なる業界の価格競争にも乗ってこなかった同社。
「価値あるものは必ず認められると絶対の自信を持ってきた」と話すのは、取締役執行役員で商品本部長・商品開発部長を兼任する後藤幸一氏だ。値段に関係なく品質へのこだわりが再評価される時代。モスバーガーの変わらぬ戦略と今後の生き残り策を聞いた。
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――主力商品の『モスバーガー』や『テリヤキバーガー』は、景気に左右されず300円を超える値段で売ってきた。
「モスはこれまでも値段が高いというイメージがありましたが、それだけ自信を持った商売をしてきたからできたこと。フランチャイズ方式による店舗展開でも、野菜のカットや仕込みは店でやり、パティ(肉)は注文をもらってから焼くスタイルを貫いてきました」
――それだけコスト増も覚悟しなければならない。
「具材に使う野菜は、はじめからカットされた野菜を使うのが常識の中、モスは3000に及ぶ契約農家から仕入れた新鮮な国産野菜を店で調理しています。見えないところで時間とお金をかけているので、逆にそれだけお値打ちの商品ばかりなんです。品質の良さをまだ消費者に伝えきれていないことが反省材料です」
――業績や景気に合わせて商品原価を見直したり、作り方をオペレーション化して効率を追求したりすることもできたはず。
「いまのスタイルを崩して320円の商品を半額で売ってみるとかディスカウントするのは、チェーンそのものの気質としてあり得ないこと。他社がどれだけ安いセットで注目を浴びても、モスは値段より価値で勝負しないとブランド力を維持できません。
だから、最近も主力のハンバーガー17商品を牛肉100%に変更するなど、むしろ既存商品のブラッシュアップを度々図っています。他社も商品群を絞って原点回帰の方向ですが、定番商品の味はいじっていませんよね」
――2014年3月期は前期比の倍となる85店を出店予定。小型店を次々と閉めているマックの跡地にも出店するなど、いよいよ攻勢を強めている。
「今まで消費者から『モスが食べたいけど近くにない』という不満の声が多かった。拠点はずっと増やそうとやってきて、ようやく1400店を超えましたが、まだまだニーズのあるところには出て行きたいと思っています。過去に一度閉店した場所でも消費者の支持が根強いところには再び出店しています。
マクドナルドさんの撤退した場所は、立地条件も良く、明らかにハンバーガーを食べるニーズがあるので、すぐにお客さんが集まりやすいのです」
――開店時間を朝7時に早めたり、デザートメニューを充実させた『モスカフェ』をオープンさせたりしているのは、新たな客層を狙っての戦略か。
「モスはレジ単価だけ見れば850~900円程度と客単価が高めなので、良質なものを少しだけ食べたいというシニア層の支持もいただいています。また、店舗のつくりが他チェーンと比べてごちゃごちゃしていないので、昼食後のティータイムで利用する主婦層も多い。そうした需要もさらに増やしたいと考えての試みです」
――女性やシニア層を取り込む商品開発はできているか。
「例えば、焼き肉やつくねなど10種類以上の具材を発売してきた『モスライスバーガー』はシニア層に受ける和メニュー。いまは野菜・海鮮のかきあげや海老しんじょが人気で、今後も様々な提案をしていきます。また、今まで使わなかったような国産野菜をメニューに取り入れる工夫もしていきます。いま、サラダに採用しているパプリカは多くが輸入ものですが、モスは農家と提携する強みを生かして国産にこだわっています」
――カフェでのドリンクメニューのこだわりは?
「『モスカフェ』のアイスティーは店で高品種の茶葉から煮出し、冷ましてから提供しています。紅茶好きが飲めば香料を使っていないことがすぐに分かっていただけるはず。また、日本的なメニューが多い特徴をさらに打ち出そうと、あんこを使ったデザートも充実させています」
――デザートやドリンクは同業他社との争いだけでなく、コンビニも脅威となっている。
「確かに100円コーヒーをはじめ、単品だけでは太刀打ちできないほどコンビニのメニューは良くなっています。ただ、モスは接客態度やくつろげる店内空間の提供もふくめて、トータルの価値で勝負していくしかないと思っています」
――ミスタードーナツとのコラボ店やカルビーとの共同開発商品など、異業種とのユニークな連携は今後も続けていくのか。
「宣伝ベタではありますが、あまりにも高額なバーガーを出したり、意外なコラボ商品を開発したりしてPR効果を狙うのは、やはりモスの理念とは異なります。あくまでも主力はモスバーガーの定番メニューです。
ようやく商品価値に見合った値段だと感じていただけるようになってきたので、あまり奇をてらった戦略でブランド価値を損ねるようなことはせず、今まで通りやっていきたいです」