金正日総書記の死後、世襲によって強引に権力を掌握し、安定した政権運営を進めているかに見える北朝鮮の“三代目”金正恩第一書記だが、過去には「暗殺未遂」または「軍事クーデター未遂」事件が何度か起きている可能性があるという。新刊『北朝鮮はどんなふうに崩壊するのか』(小学館)を上梓したジャーナリスト・惠谷治(えや・おさむ)氏が解説する。
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(人民解放軍総参謀長だった)李英浩の解任以降、人民軍のなかで李英浩を慕う将校たちによるクーデターが勃発するのではないか。そんな予測のもとに、私は注意深く北朝鮮情勢を見守っていた。2012年8月までは金正恩は通常どおり軍部隊視察を行なっていたが、9月以降、軍部隊視察に出かけなくなったからである。
「党と首領様に忠実でない軍人は必要ない」──。2012年10月29日、金正恩は金日成軍事総合大学の創立60周年記念で建立された金日成・金正日父子像の除幕式に参加し、演説した。金正恩は、10月6日に金正日の単身像が再建された(北朝鮮の秘密政治警察である)国家安全保衛部を訪問しているが、その1カ月半後(11月19日)、異例にも再び国家安全保衛部を訪問した。
表向きは創立記念日の記念行事に参加したとされているが、その間に、「党と首領様に忠実でない軍人は必要ない」という演説を金日成軍事総合大学で行なっていることを考えると、国家安全保衛部が人民軍内で何か新たな不穏な動きを察知したためとも考えられる。
(韓国紙の)『中央日報』(2013年3月13日付)は、この頃に、「金正恩を除去する試みがあったが、成功しなかったと当局は承知している。しかし、地方視察中でなく平壌市内で反乱の試みがあった点に注目している」と伝えている。
人民武力部長が交代し、主要幹部3人が同時に降格されたのは、「金正恩を除去する試み」と関係があったからではないかとも思われる。いずれにせよ、金正恩の人民軍に対する統制能力には疑問を抱かざるを得ず、2012年秋に「金正恩を除去する試み」があったと推測するほかはない。
※惠谷治著/『北朝鮮はどんなふうに崩壊するのか』より