「実習生……なんぼでも紹介したるわ」
電話をかけると一発OKだ。彼は2年前の夏まで山口組傘下団体の幹部だった。工場は大阪市内から車で3時間ほどの距離にあった。事務所で3人の中国人女性を紹介してもらった。彼女たちは「外国人技能実習生」。
ミシン縫いの作業をしており、敷地内のプレハブに居住している。部屋はわりと広い。窓側にベッドが並んでいた。テーブルのカセットコンロに置かれた土鍋には、豆腐と白菜がそのままだった。
同行した元幹部は上機嫌で説明した。
「たくさん残業したいと言われるが、家族的な絆を大事にするヤクザとして育ったから情がわくんや。無理はさせない。今日みたいにひと月に1度は休ませる。 この後中華を食いながら懇親会だ。たまには遊園地にも行く。残業代も規定通り払ってる。やましいことは一切ない」
給料明細を見せてもらった。
12万円の基本給から、3万円の寮費、1万円弱の光熱費、1万5000円の雇用・社会保険料、2万円の管理費が差し引かれて4万5000円。残業代を加えると7万円が手取りとなる。毎日3時間程度の残業の時給は実質287円。最低賃金をはるかに下回る。
「ひどいところは朝8時から翌朝6時まで仕事させ、2時間仮眠でそのまま勤務させる。うちは優しいほう」
事実、彼の中では家族同然に接しているのかもしれない。が、その優しさは奴隷主の心情だ。暴力団には向いている。他人の生き血を啜る吸血鬼らしいシノギではある。
■文/鈴木智彦(フリーライター)
※SAPIO2013年9月号