国際的に活躍する日本人俳優は増えてきたが、多くは英語を話している。現在、全国で公開中のハリウッド映画『終戦のエンペラー』では、普通に日本語が話されている場面が多い。主人公を演じたマシュー・フォックスは、ドラマ『LOST』に主演し日本でも知られるようになり、ハリウッドの第一線で活躍している。彼にとって、共演した日本人俳優たちの言葉はどのように届いたのか、映画史・時代劇研究家の春日太一氏が綴る。
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現在、ハリウッド映画『終戦のエンペラー』が公開中だ。日本がいかにして太平洋戦争の敗北を認めて終戦し、その際に昭和天皇はいかなる役割を果たしたのか。その調査をマッカーサーに命じられたGHQの米軍将校が当時の日本政府高官たちを聴取していくという視点が斬新な、ミステリー仕立ての作品だ。
そのため、主人公を演じたマシュー・フォックスは、多くの日本人俳優と共演している。ハリウッドの第一線で活躍する男の目には、日本のベテランたちの演技はどう映ったのだろう。
「日本人の俳優たちと共演できるのは、とても光栄なことでした。彼らには、ある種の静けさと強さを併せもった、非常に独特な演技の形式があります。そうした演技を間近に見たり、一緒に演じたりしながら、多くのことを学ぶことができました」
劇中で最も鮮烈な印象を与えてくれるのは、先日亡くなった夏八木勲である。彼が演じるのは、天皇の最側近として仕える侍従役だ。なんとか天皇の真意を聞き出そうとする主人公に対し突然立ち上がって短歌を詠み上げたりしながら、のらりくらりと回答をはぐらかすシーンには独特の緊迫感があった。夏八木の不敵な芝居は、完全にその場を圧倒していた。
「あのシーンはとてもよく覚えています。夏八木さんが演じたのは自尊心の強い男で、短歌を詠み上げるところにそれが現れていたと思います。あそこまで力強い言葉は、これまで聞いたことはありませんでした。
リハーサルの段階で彼の短歌を耳にして、一個人として素に戻ってしまうくらい凄いと思えました。私が演じたフェラーズ准将は、あの場面では答えを得ようとして迫るものの得ることができず、とてもイラついていました。そこにあの短歌を聞いて呆気にとられてしまう。そんな気持ちが自分のこととして体感できる、感動的な短歌でした。
共演者の演技に持っていかれたり、相手のセリフに飲み込まれてしまうというのは、俳優にとっての醍醐味だと思います」
●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)ほか。
※週刊ポスト2013年8月30日号