【書評】『死後のプロデュース』(金子稚子/PHP新書/798円)
【評者】末國善己(文芸評論家)
昨年10月、41才で逝去した流通ジャーナリスト・金子哲雄さんの最後の著書『僕の死に方 エンディングダイアリー500日』(小学館)は、大きな話題と感動を集めた。肺カルチノイドで余命宣告されながらも、葬儀をはじめとする死後の準備に積極的に取り組んだ最晩年の活動と、死に向き合ったときの思いは多くの人の心を揺さぶった。
金子さんが考えていた死後の準備を実際に手伝った妻は、その活動をどのようにとらえていたのか。愛する夫の闘病生活と死を誰よりも近くで見ていた妻が、自らの心の変遷をまとめたのが本書である。
昨今は葬儀に関する希望や相続などについて事前に書き遺す「エンディングノート」を記す人が増えている。しかし、金子さんの最後の活動は一見同種のように思えるが、その内実はかなり異なっていると妻はいう。
金子さんは、人間の死は人生の大きな流れの一つの通過点にすぎず、自分の死後も残された人たちによって流れが受け継がれていくと考えていた。そのため、最後に行った死後のプロデュースは、人生の終わりを念頭に置いたエンディングノートとは意味が異なっていたのだ。
金子さんの思いを理解し、その死生観を共有した妻・稚子(わかこ)さんにとって、金子さんが残した指示を実現することは“業務の引き継ぎ”であったといえる。
もちろん、金子夫妻は始めから死と向き合う覚悟ができていたわけではない。長年の夫婦生活と病床での長い話し合いによって、「引き継ぎ」ができるまでになったのだ。
最悪だった第一印象、出会いから3か月後にして決めた結婚、夫婦間で欠かさなかった「ホウ・レン・ソウ(報告、連絡、相談)」…など、エピソードまじりに語られていくふたりの歩みを読み進めると、愛の強さに胸が熱くなり、金子さんが遺した“家族の協力があれば誰もができる”というメッセージの真意も実感できるのではないだろうか。
妻は、金子さんから数多くの「引き継ぎ」を受けたと自覚することで、悲しみすぎない生活が送れたのはもちろん、その後の生き方も大きく変わったとしている。
人が生きている限り、死は避けらない。死を恐れるのではなく理解するためにも、本書は貴重な手がかりを与えてくれる。
※女性セブン2013年9月5日号