連続ドラマが好調な今期。脚本家に焦点を当てると、『あまちゃん』(NHK)の宮藤官九郎氏、『Woman』(日本テレビ系)の坂元裕二氏、『スターマン・この星の恋』(フジテレビ系)の岡田惠和氏と腕のある人気脚本家の起用が目立つ。中でも『スターマン』は、キレのある演出が人気の堤幸彦氏(『TRICK』『SPEC』などを監督)とのタッグが注目されたが、視聴率はひと桁台と大苦戦。しかし、「終盤で楽しませてくれるのが岡田さん。見限るのは早い」という芸能・ドラマ評論家の木村隆志さんが、岡田脚本の魅力を解説する。
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今回は大苦戦していますね。でも、まだ判断は難しいです。岡田さんが書く脚本は、“ノンジェットコースタードラマ”です。ご本人も常々言っていますが、特別なことをせず、どこにでもいる人の日常を描きます。そういうテイストに加えて、今回はファンタジーが入っているので大衆ウケしにくいところがあります。物語は、夫(安田顕)に逃げられたシングルマザー・佐和子(広末涼子)と、実は宇宙人の青年・星男(福士蒼汰)とのラブストーリーです。設定が宇宙人というと、それだけで敬遠する人もいますから、スタートダッシュがきかなかった。視聴率は低迷していますが、伏線を張り巡らせてゆっくり“人”を描いてきていますから、見切りをつけるにはまだ早いと思います。
ハートフルな作品を作る彼の脚本の特徴は、登場人物が性善説で描かれることです。今期、高視聴率を記録している『半沢直樹』(TBS系)や『DOCTORS2』(テレビ朝日系)のようなドラマは、勧善懲悪がはっきりしているから見やすいんです。岡田さんの場合はどの作品でも、“悪い奴も実はいい人”。今回なら、記憶を失くす前には荒んだ男だった星男が、素直な心を取り戻した。佐和子を捨てた夫も、彼女のもとに戻ってきたものの星男の存在を知って、わざと嫌われて去る姿が描かれています。
このように岡田さんは、最後には誰にも良心や純真さが残っているというところを丁寧に描く。だから逆に主人公は映えにくい。物語があまり動かず人間をじっくり描く作品は、是枝裕和監督の作品のように2時間ほどの映画なら見やすいですが、それがドラマで10話くらい続くと、チャンネルを変えられてしまうんですよね。それが、『スターマン』の視聴率が低迷しているいちばんの理由だと思います。
岡田脚本の魅力は、“みんなが忘れてしまったものを思い出させてくれる”ことです。誰もが持っていた純粋無垢な気持ちや良心だったり、自分は元はこんな人間じゃなかったとか、自分が失ってしまったことを説教臭くなく、気づかせてくれます。今回なら、星男が故郷の星を見て涙を流しつつも、佐和子や子供たちを心から大切に思っている。同じ星から来た重田(國村隼)も家族を思うあまり、“お迎え”が来るのを恐れているなど、宇宙人たちは人間以上に純粋な心を持っています。
同様に、『泣くな、はらちゃん』(日本テレビ系)だったら、漫画の中から現実世界に飛び出たはらちゃん(長瀬智也)が、誰もが抱く初めて見たり、体験したりしたときの純粋な気持ちや驚きを思い出させてくれる。『最後から二番目の恋』(フジテレビ系)も、普通の中年男性(中井貴一)と独身のキャリアウーマン(小泉今日子)がお互いに恋心に気づかずけんかしたり皮肉を言い合ったりする姿を描きながら、恋する気持ちを思い出させてくれる。タイトルの“最後から二番目”も、年を重ねた女性でも乙女心は残っている、いつでも恋はできるということが書きたかった。“最後の恋”としないのが、岡田さんらしいです。
視聴率で見ると、『最後から二番目の恋』は安定した視聴率ながら終盤3話はさらに右肩上がり。『泣くな、はらちゃん』も、第3話からひと桁台に落ちましたが、最終回は二桁で終わりました。人気を受けてスペシャルドラマが作られた『最後から二番目の恋』や、パート4までシリーズ化した『ちゅらさん』(NHK)のように、後から改めて評価される作品が多いのも特徴です。『スターマン』もネットでは酷評もありますが、残り3話からでも見てください。ラストできっと楽しませてくれると思いますよ。