左右の端がピンとはねあがったヒゲは、19世紀末から第一次世界大戦まで在位したドイツ皇帝、ヴィルヘルム2世にちなんで「カイゼルひげ」と日本では呼ばれている。大正天皇や当時の皇族は多くがこの形にヒゲを整えていたというが、現在ではほとんど見かけない。どこかユーモラスな雰囲気も漂わせるこのヒゲに、NHK朝の連続ドラマ『あまちゃん』の主演女優、能年玲奈が夢中なのだという。
『あまちゃん』撮影中に迎えた20歳の誕生日には、スタッフとキャストの皆が用意してくれたお祝いのケーキに大きな「カイゼルひげ」があしらわれていた。ヒゲのデザインに感激した能年は、ブログに「髭と海女さんのケーキ。じぇじぇ。」と綴っている。さらに別の日には、何種類もコレクションしているつけヒゲをつけた写真も披露している。
ヒゲ好き女子は能年だけではない。きゃりーぱみゅぱみゅは、昨年11月に鼻下のケガを隠すのに「カイゼルひげ」のつけヒゲをつけて公の場に登場した。スマホで撮った写真にヒゲを載せるアプリが女性を中心に人気を呼んでおり、多くの人気モデルやタレントが、みずからヒゲをつけた画像をTwitterやブログにアップしている。その多くは「カイゼルひげ」だ。
そして、街の女性たちも「カイゼルひげ」に魅せられている。「微妙にくるんとした感じが、可愛いですよね」というのは、アパレル関係で働く20代女性だ。
「雑貨屋さんに行くと、ヒゲがモチーフになったものがどうしても気になっちゃいます。アクセサリーも買いましたし、ほら、ツメもヒゲモチーフにしているんですよ」
そう言いながら見せてくれた指先には、ワンポイントでカイゼルひげが描かれている。
「ネイル用のシールでヒゲ柄があるんです。手先が器用じゃなくても、これならキレイなヒゲの形になります」(前出・20代女性)
文具や雑貨の売り場をのぞくと、「カイゼルひげ」をあしらった手帳やシールがいくつも見つかった。売場担当者に訊くと「意識していませんでしたが、そういえば最近、ヒゲのついた商品が増えていますね」という答えが返ってきた。
雑貨店やアクセサリーブランドのLilou(リル)などを展開しているアテックス株式会社によれば、ヒゲをモチーフにしたアクセサリー類の人気が出始めたのは一昨年から。
「種類を増やし続けているので比較が難しいのですが、2012年後期と2013年前期でヒゲをモチーフにしたものを比べると、アイテムによっては600~700%も伸びたものがありました。最初はリングの人気が出て、最近は、ポリッシュブラックのネックレスが人気です」(広報・中村桂さん)
ヒゲのモチーフを売りだす際、当初はさまざまな種類のヒゲを用意したそうだが、人気が定着したのは「カイゼルひげ」だけだった。「一緒に展開したメガネのアイテムとの相乗効果もあって、カイゼルひげの”紳士”な感じが面白くてかわいいと人気を呼んでいるのではないでしょうか」(同社・販売担当者)
ヒゲのモチーフそのものはいまも人気が高いままだが、どのアイテムがもっとも注目を集めるかは流動的だ。いまやバッグに洋服、靴など、身につけるあらゆるものでヒゲのモチーフが使われ、「最近はひも付きのタグなど、カード類が人気です」(前出・中村さん)
若い女の子が、オヤジなモチーフを身につけるアンバランスさでカワイイを演出する「カイゼルひげ」。今は若い女性限定のデザインだが、数年後には、模様デザインのひとつとして幅広い年齢層に広がっているかもしれない。