創刊32年を迎える「性生活報告」(発売元:サン出版)は現在も部数1万部以上を誇る熟年投稿雑誌である。投稿作品に一切手を加えないという編集方針は、現在も貫かれている。ノンフィクションライターの本橋信宏氏が綴る。
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庶民の貴重な性の歴史的文献とも言える「性生活報告」誌は、どのように誕生したのだろう。サン出版を訪れた私を出迎えたのは、櫻木徹郎編集顧問、同誌に長く携わってきた編集スタッフの安西弘吉氏、穴見英士現編集長である。櫻木氏は、ゲイ雑誌「さぶ」や女性向け耽美同性愛誌「JUNE」などの創刊にかかわった名物編集長である。
肉食系高齢者の性の饗宴を毎号送り出してきた3人のベテラン編集者が集うと、意外なことに大学教授会のような知的インテリジェンスさえ漂わせる。
「『性生活報告』は新田啓造編集長の個人的情念で起ち上げた雑誌です」と櫻木氏(残念ながら新田氏は2年前に病に倒れ、還らぬ人となった)。
「新田さんは幅広いキャパがあり、なんでもすくい上げる能力がありました。投稿してくる人を大事にする編集者でした」(安西氏)
「目力がある。新宿で飲んでいて、じっと見つめると女がついてくるという伝説があったくらいですから(笑)。やさしい上に女を惹きつける牡の魅力があったんじゃないでしょうか」(穴見氏)
庶民の性報告書は肉食系編集長が創刊させたものだった。
同誌の投稿は大きく分けて4期に分けられるという。第1期は戦中から戦後にかけての性体験。戦地におもむいた夫を待つ人妻を寝取ってしまった話、防空壕で他人妻と交わってしまう話等が投稿された。第2期は、東京オリンピックを契機に日本中が高揚した1960年代の高度経済成長期の性体験。集団就職した少年が下宿先のおばさんに童貞を奪われた話、人妻を寝取ったそば屋の出前の話が目につく。
第3期はバブル期から平成にかけて、高齢化でお年寄りが増え、彼らの現在進行形の性体験が集まった。敬老会でナンパして乱淫した話、団塊世代がリタイヤして中学高校の同窓会が増え、幼なじみと一線を超えてしまう話。そして世紀をまたいだ第4期は、手書きの投稿に混じりメールで送る新高齢者の割合が増えた。バイアグラの力で若い世代に負けない年配者の性体験が目立つようになる。
「部数は1万部です。32年間のなかで一番部数が出ていたのが1990年前後で、3万部出ていました」(穴見編集長)
出版不況で相次ぎエロ本が休刊に追い込まれるいま、この部数は大健闘だろう。
「性生活報告」に集まる手記に共通するのは、反省など皆無、快楽に忠実、性欲絶対肯定主義だ。
彼らの日常生活は善良な常識人であるが、こと女との肉交になると様変わりする。落差があるほど性のエネルギーは増大するのだ。
「エロは生きる源になるんです」(櫻木氏)
男たちの性体験報告は紅染月の今夜も、新たに生まれる。
※週刊ポスト2013年8月30日号