あの東日本大震災からおよそ2年半。いざ緊急地震速報が鳴ってもすぐに適切な行動に移れる人はほとんどいないのではないだろうか。緊急地震速報が出た際に、やるべきこと、やってはいけないことを、改めて専門家に取材した。
かつて自宅での安全なエリアといえば、四方を柱と壁で囲まれたトイレといわれたものだが、災害危機管理アドバイザーの和田隆昌氏によれば、それは誤った情報らしい。
「トイレに逃げれば安全というのは時代遅れの認識です。トイレは構造上、ドアが開かなくなるなどして閉じ込められやすい。わざわざ逃げ込む必要はなく、使用中に速報を聞いたのなら、まずドアを開け放つこと」
防災システム研究所所長の山村武彦氏も、トイレの危険性をこう指摘する。
「トイレに太い柱を使っていた時代もありますが、それは昭和までの話。いまの建売住宅では細い木材に代わっていますから、トイレが安全とはいえませんね」
その点、玄関まわりは柱が太く強度が高いうえに大型家具もなく、落下物の危険性も少ない。そして何より、いつでも外に出られる。
「緊急地震速報を自宅で受信したら、まずは玄関へ。地震後にドア枠が歪んでドアが開かなくなるのを防ぐために、まずドアを開けましょう」(和田氏)
“揺れたらテーブルの下へ”という、地震対策の常識と思われたことさえ、今では通用しなくなっている。テーブルの上の食器が床に散乱したり、家具が倒れてきたら身動きがとれなくなってしまうからだ。
「次の退避行動を考えて、落下物で動けなくなる可能性がある机の下よりも、玄関など、より安全な場所に移動することをまず考えるべきです」(和田氏)
さらに、男性が家で地震に見舞われた場合、どうしてもある行動をとりがちだと、前出の山村氏が指摘する。
「男性がリビングにいると、テレビをつけろと家族に指示するパターンが多い。ニュース速報を見るつもりでしょうが、そんな暇があるならまずは安全な場所へ移るべきです」
何が起きているか早く知りたいという気持ちはわかるが、情報収集は揺れが収まってからでも遅くない。速報が出たら、妻や子供を呼び集め危険の少ない玄関へ。こうして安全を確保するのが一家の長の務めだ。
家の中でも特に危ないのが台所。緊急地震速報が発令されれば、ついつい火の元の確認にも行きたくなるが、そこはグッと我慢すべきだ。
「火の元、ガスの元栓のチェックも大事ですが、最近のガスメーターは震度5以上の揺れを探知したら、自動的に火が消える構造になっています。台所は危険なものが多いので、とにかく揺れが収まるまでは近づかないようにしてください」(和田氏)
冷蔵庫が倒れてくればひとたまりもないし、食器棚やシンクから落下する皿や包丁などでの負傷にも気をつけたい。
※週刊ポスト2013年8月30日号