長野県は1960年代に脳卒中の女性死亡率が全国1位となり、平均寿命は男性9位、女性は26位まで落ち込んだ。それは野沢菜など漬物を食べる機会が多く、塩分過多な食生活ゆえだった。
長野県ではいち早く自治体をあげて対策に取り組み、今年2月、厚生労働省が発表した都道府県別の平均寿命(2010年)では男性80・88才、女性87.18才を記録し、男女とも1位となった。特に女性が1975年から首位を守っていた沖縄県を抜き、日本の“長寿地図”を一気に塗り替えたことは、大きく報じられた。
実は長野県が研究者からも熱い視線を送られるのは、ただ長寿なだけではなく、健康上問題がなく、日常生活が自立している期間を示す健康寿命でも日本トップクラスを維持するからだ。
食事と並ぶ健康長寿の秘けつは運動だ。須坂市の仁礼コミュニティセンターでは毎月2度ほど、現役とOBの保健補導員が参加する「健康体操の会」が開かれる。
ある日のレッスンを覗くと、童謡『しゃぼん玉』を歌いながら20名ほどの参加者が肩や首をグルグル回し、膝を高く上げてその場で足踏みをして大きく腰をひねっている。
こうした1つ1つの関節の曲げ伸ばしや体のひねりが肩凝りと腰痛の予防になるのだと教えてくれたのは、補導員OBでこの会を主宰する中尾照美さん(68才)。まるで20代のような参加者の後ろ姿に「みんな若々しいでしょう」と笑顔を見せる。
また、須坂市では「20分の日曜大工」「10分の風呂掃除」「15分の動物の世話」「20分のゆっくり歩き」など、日常生活の活動をそれぞれ1エクササイズと数え、内臓脂肪を減らすためには、合わせて週10のエクササイズが必要だという指導もしている。「運動しなくちゃ」と身構えず、普段の生活に採り入れられる運動を学び、地域で実践していくのが長野スタイルだ。
こうした活動は任期終了後も続く。須坂市在住の石田ヒロ子さん(70才)は会社勤めで定年を迎えた10年前に保健補導員となった。家族の看護が重なり気が重かったが、健康を学び、地域とかかわるうちにやりがいが出てきた。
2年の任期終了後、せっかく学んだ健康知識を生かすため、石田さんは地域の介護教室でお年寄りをサポートするボランティアを始めた。
「定年後に暇でいるより、日々やることがあるのが大事。補導員のおかげで地域活動に目覚め、毎日が充実しています。今は会社勤めの頃より健康診断の数値がよく、健康そのものですよ」(石田さん)
実は近年、こうした社会活動の効果が世界的に注目されている。アメリカ国立衛生研究所(NIH)も認知症予防法として、「野菜と果実の多い健康的な食事」「運動の習慣」などに加え、「積極的な社会参加」を提唱しているのだ。
※女性セブン2013年9月5日号