八月十五日午後三時。JR福島駅に近い「街なか広場」で、「あまちゃんスペシャルビッグバンド」のライブが始まった。リーダーは大友良英(54)。NHKの朝ドラ「あまちゃん」の音楽担当で、世界的に知られる現代音楽家、ノイズミュージシャンでもある。
「あまちゃん」の軽快なオープニング曲が流れると、広場を埋め尽くす観客が待ちかねたように体を揺らし始めた。赤ちゃんも猫も反応する、だれもが知っているあの曲だ。
「この先、どんなにヒット曲が出ても、だれもが知ってるメロディーなんて生まれないと思ってた。朝ドラをやったら、そこそこ知られるかなとは思ったけど、ブームみたいになるとは。自分の曲が高校野球の応援に使われるなんて驚きですよ」
福島市内の気温は36度を超えていた。さえぎるもののないコンクリートの上に立つとじりじりあぶられるようだが、色とりどりの風呂敷を縫い合わせた布が敷き詰められ、ほんの少し暑さを和らげている。
フェスティバルはプロジェクトFUKUSHIMA!の主催。横浜で生まれ、福島で育った大友と、福島出身の伝説のパンク歌手遠藤ミチロウ、詩人の和合亮一が代表で、震災後すぐの二〇一一年から放射線量を測定、音楽フェスなどを実現させてきた。
「一年目は、ある意味よそものであるおれが福島に入り込んでやっていたようなものだけど、二年目以降はここに住んでいる人が中心になって、おれはその力添えをしてる感じです。きょうの盆踊りだって、おれはべつにやりたくなかったんですよ(笑)」
この日のメーンイベントである盆踊りは遠藤ミチロウの発案だった。昨年、浪江町から二本松市の仮設住宅に避難した住民に向けての音楽祭で、「ライブだけでなく盆踊りもやってほしい」と言われ、とまどいつつ応じたとき、踊りの輪の中に、ふるさとへの強い思いを感じたからだという。
「ちょうど『あまちゃん』の曲をつくるために脚本と向き合ってるときで。『あまちゃん』の、方言や地方に対する考え方と、盆踊りってなんか似てるんだよね。準備を進めるうちに、だんだん、盆踊りにも向き合ってみようかなと思うようになった。ばらばらに進行してたんだけど、おれの中ではこの二つが重なり合っています」
取材・文■佐久間文子
※週刊ポスト2013年9月6日号