楽天の田中将大が、2シーズンにまたがってではあるが連勝記録を続け、それまでの日本記録だった故・稲尾和久氏の20勝を超えた。シーズン20勝以上を8年連続で成し遂げた稲尾氏について、スポーツライターの永谷脩氏が綴る。
* * *
稲尾の20連勝は、1957年7月18日の大映戦から10月1日の毎日戦まで。プロ2年目の20歳の時であった。当時の話を、稲尾から聞いたことがある。
同年春のキャンプで、稲尾は自ら進んで、中西、豊田らの練習時に打撃投手を務めた。そしてファウルや凡打になった時、なぜそうなったかを聞いている。そこで得た結論は、「タイミングさえずらせれば打ち取れる」ということだった。「速い球を投げたい」というこだわりを捨てた時、20連勝ができ、その延長線上に稲尾の最大の武器であるスライダーが誕生したのだった。
日南学園の寺原隼人(ソフトバンク)が158キロの甲子園最速記録を出した時、稲尾がポツリと言った言葉が耳に残っている。
「速い球を投げたい、鋭い変化球を投げたい。そう言っているうちはまだアマチュアだよ」
田中が21連勝を記録した試合、最速は149キロ。以前ほどスピードを気にしなくなった田中のピッチングを、稲尾はどう評価するだろうか。
※週刊ポスト2013年9月6日号