スポーツ

マラソン川内優輝 母の怒声を浴びる猛練習を6年間続けた

 ゴール後、川内優輝(26)は一人だった。18位に終わった世界陸上モスクワ大会・男子マラソン(8月17日)。がっくりとうな垂れ、ふらふら彷徨うと、係員に両脇を抱えられて、何とかスタンド下の退避ベンチに座る。走り終えていた日本の選手たちは、冷ややかに背を向けていた。ノンフィクションライター・高川武将氏が“孤独のランナー”の深奥に迫る。

 * * *
 川内に走るきっかけを与えたのは、母・美加さんである。
 
 小学1年のとき、マラソン大会に本人の意向を聞かないまま応募したのが始まりだ。1500メートル男子の部で100数十人中の5位。以来、母との練習が日課になる。ただそれは、母と息子の楽しい語らいのひと時とはかけ離れていた。
 
 場所は近所の公園、1周500メートルのコース。3周を走らせ、母が毎回タイムを計る。条件は前日より1秒でも上回ること。要は毎日がタイムトライアルなのだ。
 
 前日の記録を上回れば練習は終了となり、アイスやケーキを買ってあげる。1秒でも下回れば、罰ゲームとして500メートルを走らせる。予め設定したタイムを下回れば、もう一度。それを5回は繰り返すのだ。
 
 ベストタイムなど毎日出るわけがない。罰ゲームが圧倒的に多かった。それでもタイムを上回れなかったときは、その場に置き去りにした。川内は一人、家まで3キロの道を歩いて帰らねばならない。
 
 走るたびに、息せき切って芝生の上にぶっ倒れた。母は容赦ない怒声を浴びせる。
 
「早く起きなさい。草がついたまま車に乗る気なの!?」

 そんな光景を見た通りすがりの人が、「虐待じゃないか?」と咎めても、「うちの教育方針ですから」と母は言い放った。
 
「最後まで諦めないで走れ!」
 
 それが唯一、母が与えたアドバイスで、そんな日々が6年間も続いたのだ──。

※週刊ポスト2013年9月6日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

広末涼子容疑者(時事通信フォト)と事故現場
広末涼子、「勾留が長引く」可能性 取り調べ中に興奮状態で「自傷ほのめかす発言があった」との情報も 捜査関係者は「釈放でリスクも」と懸念
NEWSポストセブン
男性キャディの不倫相手のひとりとして報じられた川崎春花(時事通信フォト)
“トリプルボギー不倫”川崎春花がついに「5週連続欠場」ツアーの広報担当「ブライトナー業務」の去就にも注目集まる「就任インタビュー撮影には不参加」
NEWSポストセブン
女優の広末涼子容疑者が傷害容疑で現行犯逮捕された
〈不倫騒動後の復帰主演映画の撮影中だった〉広末涼子が事故直前に撮影現場で浴びせていた「罵声」 関係者が証言
NEWSポストセブン
筑波大の入学式に臨まれる悠仁さま(時事通信フォト)
【筑波大入学の悠仁さま】通学ルートの高速道路下に「八潮市道路陥没」下水道管が通っていた 専門家の見解は
NEWSポストセブン
広末涼子容疑者(時事通信フォト)と事故現場
《事故前にも奇行》広末涼子容疑者、同乗した“自称マネージャー”が運転しなかった謎…奈良からおよそ約450キロの道のり「撮影の帰り道だった可能性」
NEWSポストセブン
長浜簡易裁判所。書記官はなぜ遺体を遺棄したのか
【冷凍女性死体遺棄】「怖い雰囲気で近寄りがたくて…」容疑者3人の“薄気味悪い共通点”と“生活感が残った民家”「奥さんはずっと見ていない気がする」【滋賀・大津市】
NEWSポストセブン
坂本勇人(左)を阿部慎之助監督は今後どう起用していくのか
《年俸5億円の代打要員・守備固めはいらない…》巨人・坂本勇人「不調の原因」はどこにあるのか 阿部監督に迫られる「坂本を使わない」の決断
週刊ポスト
女優の広末涼子容疑者(44)が現行犯逮捕された
「『キャー!!』って尋常じゃない声が断続的に続いて…」事故直前、サービスエリアに響いた謎の奇声 “不思議な行動”が次々と発覚、薬物検査も実施へ 【広末涼子逮捕】
NEWSポストセブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
《中山美穂さん死後4カ月》辻仁成が元妻の誕生日に投稿していた「38文字」の想い…最後の“ワイルド恋人”が今も背負う「彼女の名前」
NEWSポストセブン
再再婚が噂される鳥羽氏(右)
《芸能活動自粛の広末涼子》鳥羽周作シェフが水面下で進めていた「新たな生活」 1月に運営会社の代表取締役に復帰も…事故に無言つらぬく現在
NEWSポストセブン
山口組分裂抗争が終結に向けて大きく動いた。写真は「山口組新報」最新号に掲載された司忍組長
「うっすら笑みを浮かべる司忍組長」山口組分裂抗争“終結宣言”の前に…六代目山口組が機関紙「創立110周年」をお祝いで大幅リニューアル「歴代組長をカラー写真に」「金ピカ装丁」の“狙い”
NEWSポストセブン
中居正広氏と報告書に記載のあったホテルの「間取り」
中居正広氏と「タレントU」が女性アナらと4人で過ごした“38万円スイートルーム”は「男女2人きりになりやすいチョイス」
NEWSポストセブン