2020年の夏季五輪を東京に呼び込めるか。いよいよ運命の開催地決定まで2週間(日本時間9月8日早朝)を切った。
五輪招致が成功すれば、競技場の改修や選手村の建設、多くの選手や観戦客を運ぶ輸送インフラの整備などが一気に進むことになり、その経済効果は計り知れない。
東京都の試算では、開催年の2020年までの7年でざっと3兆円の経済波及効果が見込めるという。そのうち約3分の1を占めるのが施設整備から生じる効果だ。ゼネコンや不動産が大型プロジェクトを次々と手掛けることで関連企業の株価は高騰し、五輪にかかわる新たな雇用も15万人創出できるという。
特に、湾岸エリアの晴海地区(東京都中央区)に建設予定の巨大な選手村は、開催後の副次効果も期待できる。
「民間事業者がおよそ954億円を投じて24棟からなる住居棟を建設する計画になっている。五輪が終わった後は一般のマンションに転用されるとの見通しから、近隣の再開発も進んで湾岸エリアの不動産価格の上昇が十分に考えられる」(大手不動産関係者)
晴海、豊洲、有明といった湾岸エリアの再開発は、不動産業界の両横綱である三井不動産、三菱地所が得意とするところ。選手村にも何らかの形で両社が絡んでくる可能性は高い。
だが、五輪招致を機に「両社が絡むもっと大きなプロジェクトがそれぞれ動き出すかもしれない」と話すのは、経済誌『月刊BOSS』編集委員の河野圭祐氏だ。
「丸の内の地下に“新東京駅”を建設して、羽田空港までわずか18分、成田空港までも短時間で結ぼうという鉄道構想(都心直結線)があります。東京は世界の都市の中でも成熟した街ですが、空港までのアクセスは決してよくありません。
そこで、世界中から人が集まる五輪に向けて計画が早まれば、丸の内エリアを地盤として再開発や企業誘致を盛んに行ってきた三菱地所が恩恵を受けることになるでしょう」
この構想はこれまでも国交省を中心に度々議論されてきたが、4000億円とも見積もられる莫大な事業費から、計画の進捗は芳しくなかった。だが、安倍首相もアベノミクスの成長戦略を象徴するビッグプロジェクトに据えるなど、実現に向けて本気になっている。
かたや、三井不動産は三井財閥の礎を築いたデパートの「三越」などを有する日本橋エリアの再開発に積極的。そこで、五輪をきっかけに現実味を帯びているのが、首都高速道路の地下化案である。
「老朽化が進むと同時に、東京の景観を損なっていると世界からも不評の首都高を改修させるのは重要な国の課題。特に日本橋の上を走る『都心環状線』の高架を撤去し、地下トンネルで再整備する案は、再開発エリアを分断されてきた三井不動産にとっても、長年の悲願だったのです。
三井が意気込む日本橋一帯の再開発は、丸の内や銀座に流れた人を取り戻すチャンスで、首都高の整備は三菱陣営に対抗するうえでもどうしても実現させたいことなのです」(前出・河野氏)
こちらも小泉政権時代から浮かんでは消えてきた構想で、都心環状線の整備だけで4兆円以上もかかる巨額の事業費がネックになってきた。首都高の地下化は自民党が掲げる「国土強靭化計画」でも検討課題に挙がっている。財源のメドを立てて五輪までに大改修に踏み切れるか注目される。
「五輪を舞台に、三菱村(丸の内)VS三井村(日本橋)の再開発を巡る場外バトルがクローズアップされることになるだろう」と話す河野氏。不動産に限らず、“五輪バブル”の恩恵を受けたいという財界の期待も日増しに高まっている。