“神様”稲尾和久を超える連勝記録を達成した楽天・田中将大(24)にとって、元監督である野村克也氏(78)は最大の恩師だ。なぜ連勝記録が達成できたかわからないとしながら田中にはまだまだ伸びしろがあると語る名将は、バッテリーを組む嶋基宏にも言及した。
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いい機会だから女房役の捕手・嶋基宏についても少しいわせてもらう。
私が監督をしていた頃、楽天の捕手には嶋のほか藤井彰人、井野卓、中谷仁の4人がいた。しかし、どれも“帯に短し襷(たすき)に長し”。共通しているのは、打撃が良くないことだけだった。
捕手は頭脳労働である。そこで一番頭が良いのは誰か、マネージャーに頼んで中学時代の通信簿を調べてもらった。すると嶋が抜群で、オール5だという。思わず「10点満点か」と聞き返したが、5点満点だといっていた。そこで嶋を使ったが、勉強脳は野球脳とは違うということを痛感させられた。優等生である彼は、とにかくハートが弱かった。
リードはとにかく外角一辺倒。ベンチから「インコースを攻めろ」と怒鳴っても投げさせない。理由を聞くと、「ぶつけでもしたら……」と言葉を濁す。要は報復死球が怖いのだ。特にパ・リーグはDH制で投手が打席に立たないため、捕手が狙われるからである。
現役時代の私はとにかく狙われた。昔は危険球退場がなかったこともあって、ホームランを打っただけでも、次の打席には頭にボールが飛んでくる。そんな“悪い奴ら”と渡り合えるくらいの強さがないと、捕手は務まらない。当時、退場制度があったら、私はもっと打てていたのではないか。
現在の嶋のリードを見る限りでは、彼はまだ何も変わっていない。今回の田中の記録達成について嶋の成長を指摘する人もいるようだが、私はそうは思わない。あくまで田中の力である。
※週刊ポスト2013年9月6日号