今年8月7日、福島第一原発の敷地内に流れ込む地下水1日1000トンのうち、300トンが原子炉建屋に入り込んで放射性物質を含む汚染水と混じり、海洋に流出しているという試算を資源エネルギー庁が公表した。これは実に25mプール1杯分の汚染水が毎日、太平洋に注ぎ込まれている計算になる。
8月19日には、原発敷地内に汚染水を貯蔵するため設置されたタンク付近に水たまりが見つかり、そこから毎時100ミリシーベルトという強烈な放射線が計測された。原発作業員に許容される年間の積算放射線量50ミリシーベルトにわずか30分で達する莫大な量だ。
東電は当初、「タンクから漏れたのは120リットル」と言い張ったが、その後、過去最大の300トンの汚染水が漏れたことを渋々認めた。
続々と明らかになる海洋汚染はどれほど危険なのか。最も懸念されるのが「人間に最悪の影響を及ぼす」(京都大学原子炉実験所・小出裕章助教)というストロンチウムの拡散だ。
「ストロンチウムはカルシウムに似ており、いったん摂取すると骨に留まって人体に有害な放射線を出し続けます。骨は人間の血液を作っている大事な部位であり、ストロンチウムに被曝することで、血液のがんである白血病や骨自身のがんを引き起こすとされます。
しかも放射線の威力が半分になる『半減期』が29年なので、一度汚染されるとほぼ一生にわたって内部被曝し続ける。非常に恐ろしい放射性物質です」(小出助教)
海洋流出を続ける1日300トンの汚染水にも、タンクから漏れて海洋に流れ出た300トンの汚染水にも、ストロンチウムは含まれている。食の安全を守るためにも大量の放射性物質漏えいへの対策が急務なのだが、現状はどうか。
水産庁は事故直後から現在に至るまで、福島県及び近隣県の主要な港で水揚げされた水産物のサンプリング調査を週に1回程度、行っている。
それを見ると、原発事故から2年半が経った今でも、放射性物質のセシウムが基準値である1kgあたり100ベクレルを超える数値となっている。しかし、ストロンチウムは、鮮魚においてほとんど測定されていないのが実情だ。
「簡単に測定できるセシウムと違って、食品内にストロンチウムがどれほど含まれるかを測定するには、時間をかけて検査をする必要があります。このため、測定が行われずデータがほとんど出ていないのです」(小出助教)
実際、水産庁は現在もアリバイ的にわずかな魚種でストロンチウムを測定しているが、セシウムに比べ測定量は格段に少ない。
「ストロンチウムは検出に30日ほどかかります。魚は水揚げされて30日すれば腐敗するので検査にふさわしくないのです。国の基準値は、セシウムが100ベクレル以内ならば、たとえストロンチウムが含まれていても人体に影響はないだろうと見越した推計値です。したがって、ストロンチウムを測定していなくても心配することはありません」
水産庁はこう弁明するが、海洋汚染が深刻化するなか、これほど人体に有害な放射性物質を“無視”している状況には不安が募るばかりだ。
※女性セブン2013年9月12日号