平均視聴率が過去最高の23.9%を記録するなど、ブームが続いているNHK連続テレビ小説『あまちゃん』。このドラマを支えているのが名脇役たちだが、なかでも人気劇団「大人計画」の役者陣の存在感が際立つ。脚本を手がける宮藤官九郎氏も同劇団所属で、松尾スズキ(喫茶店のマスター・甲斐役)、荒川良々(副駅長・吉田正義役)、皆川猿時(教師・磯野心平役)、村杉蝉之介(カメラ小僧、アイドル評論家・ヒビキ一郎役)など個性的な役者がそろう。彼らは『あまちゃん』にどういった効果をもたらしたのか? コラムニストのペリー荻野さんが分析する。
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『あまちゃん』がこれまでの朝ドラにない盛り上がりを見せているのは、大人計画の役者の存在が大きいでしょう。彼らは癖のある演技をするので、いるだけで不思議な存在感がある。その存在感が『あまちゃん』の脚本の面白さにマッチしていると思います。
彼らの演技はどこかユニークですが、わざと笑わせようとするものではありません。仮にお笑い芸人が役者として『あまちゃん』に主要なメンバーで出演したとして、面白いキャラクターになっていたでしょうか? おそらくあまりハマらなかったと思います。それは小劇場での舞台を数多くこなしている大人計画の役者とお笑い芸人では、演技における面白さの“質”が違うからです。大人計画の役者には、笑いを醸し出す雰囲気というか、ジワジワとにじみ出てくる面白さがあり、それが彼らの魅力だと思います。
『あまちゃん』で彼らのセリフは意外に多くありませんが、強烈な個性を発揮しています。もちろん、役者個人のキャラクターもありますが、クドカンの脚本が彼らに合わせて書かれている、つまり当て書きなので、その個性を引き出せているということもあるでしょう。
『あまちゃん』でも、配役にそれなりに役割があって、クドカンがストーリーのカギとなる場面で、大人計画の役者を信頼して託しているのがわかります。例えば、副駅長(荒川良々)は大事なシーンで必ず目撃者になる。アキが種市先輩(福士蒼汰)にふられたあと、ユイちゃん(橋本愛)が種市先輩の胸ぐらをつかむところを見てしまうのも副駅長ですし、ユイちゃんがグレてしまったのを初めて目撃したのも彼。喫茶店のマスター(松尾スズキ)は、アイドルを目指していたころの春子(小泉今日子)と太巻(古田新太)のやりとりや、GMTを辞めてからのアキ(能年玲奈)の成長など、ストーリーのポイントとなる場面に居合わせています。
それをいちいち言葉にしない演技が、面白さを増しています。過剰に演技をして説明の芝居もできるのに、それをせずにマスターのようにただ黙っているとか、副駅長のようにしゃべらないでただ陰から覗いているとか、そういった演技をする。決して派手なリアクションをするわけではないんですよね。喫茶店で太巻と春子が言い合いになったシーンでも、今日こそマスターは何か言うだろうなと思って見ていても、結局、何も言わない(笑い)。そこが面白い。静かでありながら存在感がある芝居というのはやっぱり大人計画の役者だからこそできることだと思います。
NHKの朝ドラに、これだけ大人計画の役者が出たという意外性もあったと思います。深夜のドラマや小劇場で出るような役者が朝ドラの15分の枠の中で、ひねった芝居をチラチラと見せるから、それが面白さにつながっています。朝ドラでやるからこそ、普段、クドカン作品や大人計画の役者を見たことがない人にも興味をもってもらうことができ、逆に、朝ドラを見ていなかった舞台好きの人も取り込むことができたのでしょう。