女性のエイジングについて真正面から向き合った小説『エストロゲン』(小学館)が話題だ。上手に年をとれない人が増えている現代、年を重ねるのはそんなに悪いものではないと話すのは、ドラマ『抱きしめたい!』などの演出を手がけるフジテレビの役員待遇エグゼクティブディレクター・映画監督の河毛俊作さん(60才)。著者の甘糟りり子さん(49才)とは20年来のつきあいというふたり。本音を語る――。
甘糟:河毛さん、エストロゲンって言葉、ご存じでした?
河毛:知りませんでした。新しい怪獣の名前かと(笑い)。でも、小説は興味深く読みましたよ。女性はすごいなぁというのが正直な感想。ぼくはこの年になっても女の人について何も知らないんだなと思いながら。
<エストロゲンとは、女性ホルモンのひとつ。47才の女性3人が主人公の本書は、40代50代が直面する体の変化や出会いがテーマ>
甘糟:すごいって怖いってことですよね?
河毛:そう、怖い(笑い)。主人公たちは47才ですけど、甘糟さんは今おいくつですか?
甘糟:49才です。連載を始めた当時が47才で、登場人物の設定を自分と同い年にしたんです。
河毛:ぼくは1952年生まれですから団塊世代のちょっと下。戦後日本の価値観なのかな。若さは力強く、美しく、素晴らしいっていうアメリカ文化の洪水の中で育ちました。
甘糟:私が子供の頃は高度成長期で、大人になるとバブル時代を経験しました。いつでも、今日より明日のほうが楽しい、明るい、そういう空気の中で育ちました。大学の頃は女子大生ブームで、分不相応にちやほやされた。そんなふうに生きてきた人たちが若さを失って、右往左往しているのが今なんですよね。
甘糟:若さに執着するのはみっともないという自覚ぐらいは持ちたいな、と思いながらこの作品を書きました。
河毛:実はぼくは真逆で、昔からジイさんって格好いいなと思っていたんですよ。アメリカ文化の洗礼も浴びたけど“成熟”というものにとても興味があって。この本の登場人物は、どこかで成熟を拒否してるっていうのかな、成熟の仕方がよくわからないように感じますね。
甘糟:40代はその辺がまだまだ暗中模索ですよね。
河毛:実際、どうすれば正しく成熟できるんだろうね。
甘糟:今は、美容にしても健康にしても、若さを維持する方法やアイテムがたくさんあって、その情報も洪水のように流れてくるでしょう。外見が年をとらないと、心もついていかないと思うんですよね。私自身も、まっとうに年相応でいたいと思いつつ、目の前に情報を差し出されれば、やっぱり飛びついちゃう。矛盾しているんですよね。
河毛:ぼくはどちらかというと、外見は年をとってもいいけれど、精神的に瑞々しくありたいと思っているんですよ。
甘糟:私は、外身はともかく、中身は早く達観の域に達したいですね。でも、体と心は別々には年をとれないですし。
河毛:まぁ、外見は心の一部ですから。
甘糟:私たちの年代って年下の人に“イタい”と言われることに、すごくおびえている気がするんですよ。
河毛:“イタいですけど何か?”じゃダメなの? 例えば女子高生からしたら、女子大生が“イタいおばさん”になったりするでしょう。そうなると世界でいちばんえらいのは小学生とか? そういうことになっちゃう。
甘糟:それは変ですよね。
河毛:イタいを分析すると、自分をわかっていない、知ったかぶりをする。この2点だと思うんだよね。
甘糟:その自覚があるだけでも、イタさは半減するかもしれませんね。河毛さんが新しく撮られた『抱きしめたい!Forever』(今秋放送予定)では、夏子や麻子はそれなりに成熟しているんですか?
河毛:あんまり大人になっちゃうと、彼女たちがハジけられないからね。ただ、ドラマを見たかたにはウエルエイジング、年齢を重ねるのも、まんざら悪くないという気持ちになってほしいという思いはあるんですよ。
甘糟:私もそう思います。前作の『中年前夜』や、この小説と共通のテーマです。
河毛:今度の『抱きしめたい!』の麻子(浅野温子)のお相手は50代後半。若い男ではないんです。54才の女と58才の男の恋愛。そういう意味では、年下を恋愛対象とするこの小説の女子たちとは、ちょっと方向性が違うかな。
※女性セブン2013年9月12日号