8月28日、楽天イーグルスに球団として初めて優勝マジック「28」が点灯した。創設時から同球団を取材し続けてきたフリーライター・神田憲行氏が語る。
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球団創設9年目にして、楽天イーグルスに初めて優勝マジック「28」が点灯した。9年前、私は50年ぶりに新規参入した球団のルポを書くため、毎月仙台詣でを続けていた。それをまとめた「97敗、黒字 楽天イーグルスの1年」(朝日新聞社刊)を改めて読み返していて、感慨にとらわれた。
9年前の8月28日は西武ライオンズに敗れ借金が50になった。29日も日本ハムに負けて、「全球団負け越し最下位」が早くも決定している。そんなチームがマジックを点灯させるとは……。あのころの負けっぷりを考えてみると、9年で優勝に手が届くところまで来たとは、スピード出世だといいたい。ちなみに創設時から在籍している現役選手は、投手では小山伸一郎、野手では高須洋介、牧田明久、中島俊哉だけだ。フロントの人間も、新陳代謝の激しいIT企業の親会社の社風を反映しているのか、かなり入れ替わっている。
補強も、当初は三木谷浩史オーナーの「プロ野球ビジネスは、出て行くときは億単位、入るときは100円単位」という言葉から察する通り、かなり慎重だった。初代助っ人外国人のルイス・ロペスの年俸は5000万円だった(推定、以下同じ)。それが現在の躍進を支えているマギーが1億円、ジョーンズは3億円である。「安物買いの銭失い」から大きく方針転換したのが功を奏した。といっても、私は球場まで自転車を漕いでやってくる陽気なアメリカンのルイロペが大好きだったが。
このチームを語る上で「3.11」は欠かせない。
「見せましょう、野球の底力を」
という嶋基宏のメッセージは聞く者の心を揺さぶった。あの瞬間から、嶋は名実ともにこのチームのリーダーになったと思う。野村監督時代、試合中でも直立不動で監督から説教されていた嶋ではもうなかった。
9年間、選手もフロントも変わっていく中で、唯一、変わらなかった存在がある。ファンである。
私が最初に会った楽天ファンは、初年度の開幕前、神宮球場で行われたオープン戦だった。仙台からやってきたというお婆さんは、「おらほの球団」がどんなチームなのかひとりで見に来て、しきりに「立派だねえ」「有り難いねえ」と繰り返していた。千葉マリンスタジアムでの開幕戦では、応援団のトランペット演奏がうまく行かず、相手のロッテの応援団から「もし良かったら……」と教えられながら応援した。
阪神タイガースとの仙台での交流戦では、阪神球団の幹部から、
「うちと試合をして、うちのファンが球場の半分を超えなかったのはこちらだけですよ」
という変な褒められ方(?)をしたと楽天野球団幹部は笑っていた。
「3.11」後のホーム開幕戦では、国歌斉唱に起立して、そっと涙を拭くファンの姿があった。勝って田中将大投手に「ありがとう!」と泣きながら絶叫しているファンもいた。
マジック点灯にチーム内では「目の前の試合をひとつずつ勝つだけ」という冷静な声がある。マジックはついたり消えたりするものだから当然だ。最後までペナントをしっかり走りきって、ファンたちに優勝の美酒をもたらして欲しい。