【書籍紹介】『4522敗の記録 ホエールズ&ベイスターズ涙の球団史』/村瀬秀信/双葉社/1575円
「4522敗」とは球団創設の1950年から昨年までの負け数の累計で、12球団最多だ。最初のリーグ優勝と日本一は1960年で、2度目のそれは38年後。過去に6年連続最下位の日本記録を作り、今も5年連続最下位を続ける。大洋ホエールズとして始まった現横浜DeNAベイスターズである。本書は、ファン歴30年の著者が多数の現役選手、OB、歴代の監督・コーチ、球団社長などを取材し、最弱球団の歴史を描いたものだ。
通読して、球団として長期戦略が欠けていたことがわかる。大洋時代、オーナーはオーダーや作戦に口を出す暴走気味のチーム愛があったが、生え抜き監督を育てることは怠り、三原脩、古葉竹識、権藤博、森祇晶ら名監督を外部から引っ張ってくることが多かった。〈勝っても負けても豪快に飲み歩き、取れ高が確保されれば、連覇を狙わずホッとして気を緩めてしまう〉。そんな〈漁師気質〉が染みつき、〈クジラと監督は外から獲ってくるもの〉という格言があったという。
1998年の優勝後もわずか数年間で監督、主将、4番、正捕手(現中日の谷繁元信)を放出した。DeNA出身の現球団社長は、歴代監督の方針やドラフトの方針・結果の分析が文書化されていないばかりか、そのことを問題にすることすらタブーだったことに驚いたという。
1960年に優勝したときには手配が間に合わず、最下位になった翌年のオフに優勝旅行に行った。選手たちは移動の新幹線のグリーン券を払い戻し、その金で食堂車のビールを全部飲んだ……などなど、泥臭いチームカラーを象徴するエピソードも披露される。贔屓球団という〈身内〉への愛情に裏打ちされた熱いノンフィクションだ。
※SAPIO2013年9月号