猛烈な勢いで本塁打を量産するヤクルト・バレンティン(29)。31試合を残した段階(8月29日現在)で、ついに51号に到達した。いよいよ「あの記録」が塗り替えられる──歴史的瞬間を目前に控えたその時、ヤクルトファンは大きく動揺していた。
お笑いタレントの出川哲朗は、球団の公式ファンクラブ『Swallows CREW』の名誉会員。いわばファンの代表格だが、彼の口癖「ヤバイヨ~、ヤバイヨ~」が、現在のヤクルトファンの心境をよく表わしている。
8月27日、神宮球場でバレンティンの50号弾を見届けたヤクルトファンの男性は、こう呟いた。
「純粋に本塁打は嬉しい。でも正直、ここまでくると“大丈夫なのか?”という気持ちの方が強い。あの王さんの記録だし……」
巨人・王貞治が樹立した、日本プロ野球・シーズン本塁打記録55本。過去、この記録更新に近づいた外国人選手は3人いたが、バース(阪神)は54本、ローズ(近鉄)・カブレラ(西武)は55本で止まり、更新とはならなかった。結果、半世紀にわたり輝き続けたこの記録は、ONの存在の特別さと相まって、日本球界では「聖域」と見る人も少なくない。
そこにバレンティンが殴り込みをかけている。50号到達だけで見れば、それまで最速だった2002年のカブレラ(117試合)を超えた(111試合)。本稿締切時点でも、記録更新はほぼ確実の情勢である。だが、これがファンの悩みになっている。
前出の男性の言葉は重い。
「王さんの記録には、贔屓チームに関係なく、野球ファン全員に特別な思い入れがあるから、抜く者には自ずと“格”のようなものを求められる。誰も大っぴらにはいわないが、正直なところ私自身、外国人選手が記録を抜くことに抵抗がある。
それに今年のヤクルトは恥ずかしながら最下位という体たらく。バースたち3人は優勝チームの主砲だったから、まだ言い訳ができたが、このままじゃヤクルトファンにも他チームのファンにもスッキリしない記録達成になってしまう」
※週刊ポスト2013年9月13日号