「ねえ、凍結する?」
「今、一応の相手はいるけど、どうなるかわからないからしようと思う」
「30半ばで彼もいないし、もう無理だと思っていたけど、やる気がでてきたわ」
「でも相手ができて、私の卵子凍結してあるのっていったら男の人、ドン引きしないかなァ?」
なにやら不穏(?)なご意見が飛び交っている。いま、30代の女性たちは寄ると触るとこの話題になるらしい──。
この8月23日、日本生殖医学会は、健康な独身女性の「卵子の凍結保存」を容認するガイドライン案を公表した。卵子の凍結保存とは、卵子を採取して凍結保存しておき、将来の出産に備えるという医療サービスである。
国立成育医療研究センター・母性医療診療部の斉藤英和医長はこう説明する。
「従来、卵子凍結は不妊治療や、がん治療などで卵子ができなくなってしまうケースに利用されてきました。ところが、昨今の晩産化のなかで、健康な女性からも若いうちに前もって卵子を採取して凍結保存しておきたいという要望が増えてきたわけです」
実際、あるクリニックでは卵子凍結に訪れる30代女性は5年前の2倍以上に急増しているという。『AERA』(8月5日号)でも「卵子老化前に独身で『卵活』」という特集が組まれ、独身女性の卵子凍結保存を、婚活ならぬ“卵活”なる言葉で呼ぶなど、話題となっている。
この「卵活容認」のニュースに色めき立っているのが、冒頭30代の独身女性たちである。『卵子老化の真実』著者で、出産ライターの河合蘭氏はこういう。
「男性が思っている以上に、卵子凍結に関心をもっている女性は非常に多い。私が出会う30代女性で圧倒的に多いのは、『今は男性のパートナーがいないから』という理由です。出産適齢期の終わりは迫っているけれど、相手がいない。でも、子供は欲しい。だから、卵子凍結とともに、精子を提供する精子バンクに興味がある人もいる」
実際、女性たちの「相手はいなくとも子が欲しい」という要求は年々高まってきているのだ。36歳のITベンチャー勤務の女性もこのニュースに勇気をもらったひとり。
「20代は仕事にがむしゃらで、あの頃がなければいまの自分はないはずだから、後悔はない。でも、40歳近くなってきてすごく家族が欲しくなってきた。仕事の先も見えてきちゃったし。
最近は、本当は子供を産みたいという気持ちを隠して、50平方メートルのお一人様マンションを購入する話を進めていました。でもニュースを見て、凍結にお金を回したいって思います。
これまで仕事と体重は自分でコントロールできるけど、結婚と出産は無理だと思っていた。けど卵子の凍結ができるなら、少なくとも出産の可能性はありますよね。タネだけもらって産みたいです。いま、本気で凍結保存しようか考えてますよ」
さらに、「相手がいなくたっていい」というラジカルな意見をもつ女性も。
「将来的に、凍結した卵子を使えるようになったら、精子バンクを活用したいですね。知り合いの会社経営者の女性が、海外の精子バンクで精子をもらって出産したんです。母子家庭だけど、すごく楽しそうに暮らしている。
自分で好きな容姿やIQの高い男性の精子が選べて、キャリアを中断することなく、自分のいいタイミングで妊娠・出産できますからね」(35歳・外資系金融機関勤務)
『アラサーちゃん』で独身女性の生態を描く漫画家の峰なゆか氏(28)は、「女性にとって卵子凍結は福音になる」と、全面的に支持する。
「30歳前後で同世代の女性の友人は、みんな男性のパートナーはいるのですが、漫画家だったり、経営者だったりで、産休なんて取れないんです。『50代になって代理出産で子供をもてたらいいな』といっているから、これは本当にいいニュース。
私は子供が大好きなので、産んだら子育てにハマって仕事をしなくなっちゃうのが怖いから凍結に最適。でもいざやるとなると、お高いんでしょ?」
アメリカでは実際に精子や卵子が売買されているので、近い未来、日本でも同じようなことができるようになる可能性もゼロではないということか。
※週刊ポスト2013年9月13日号