五輪招致が達成されれば、「天国」だが、もし落選した場合、一気に「地獄」行きとなる。東京五輪に賭けた投資家は一気に下がる株価で泡を食い、大規模公共事業に期待した建設業界は完全にそのアテが外れてしまう。やがてそれらの不満は「招致失敗の戦犯追及」へとつながっていく。
「誘致失敗ショック」が一通り過ぎた後は、期待を裏切られた大メディアや各業界によって間違いなく戦犯捜しが始まるはずだ。
真っ先に槍玉にあげられるのが失言コンビの麻生太郎・副総理と猪瀬直樹・東京都知事だろう。麻生氏は憲法改正について「ナチスの手口を学んだらどうか」と発言したことが、かつてナチスに痛めつけられた欧州諸国の票に影響を与えたと指摘された。
猪瀬氏はニューヨークタイムズのインタビューで、「イスラム諸国は共有しているのはアラーだけで、互いにけんかばかりしている」と口を滑らせ、アラブ圏12か国の駐日大使への謝罪に追い込まれた。こちらはイスラム諸国の票を逃したといわれても仕方がない。
「招致活動の重要な時期に相次いだ2人の失言がライバル都市の票集めを利したのは否定できない。日本はまず謝罪や誤解を解くところから始めなければならなかった」(招致委員会関係者)
さらに猪瀬氏には苦しい選択が待ち受けている。東京都には石原慎太郎・前都知事時代に毎年1000億円ずつ積み立てた約4000億円の開催準備基金が残っている。それを何に使うのかが次なる大問題になる。
基金の原資は都民の税金だ。6月の都議選の公開討論会でも、「五輪が来ないなら、取りすぎた税金は減税で都民に返すか、子育て支援や社会保障に使うべき」という声があがっており、現実に招致に失敗したらそうした都民の声が一層高まるのは間違いない。
それに対して、都議会自民党や建設業界、各競技団体には、「五輪が開催できない場合でも老朽化した競技施設の整備にあてるべきだ」と計画通りの競技場建設を求める声が強い。猪瀬知事が選択を誤れば、都知事選で得た434万票を敵に回すことになりかねない。
※週刊ポスト2013年9月13日号