外国人技能実習制度が“本物のブラック企業”の温床となっている。同制度はもともと開発途上国への技術移転を目的とした在留資格として設立された。日本で1年間研修を受け、試験に合格すれば、さらに2年の実習ができるシステムだ。
この3年を悪用して、「最低賃金以下で雇える使い捨ての格安労働者」が生み出された。2009年の法改正、翌年の制度改正によって最低賃金法や労働基準法が適用されるようになっても実態はあまり改善せず、最下層の労働者である事実は変わらない。
2011年時点で実習生は約5万人。同制度では表向き、企業団体や各協同組合などが「監理団体」として実習生を受け入れている(一次受け入れ)。実習生は「実習実施機関」(二次受け入れ)で働き、技能習得を目指す。
しかし、現実には前出の元幹部のような、業界内で「ゼロ受け」と呼ばれる斡旋稼業をする者が暗躍している。ゼロ受けは外国から実習生を連れてくるだけでなく、週に2~3回、車で現場の実習生たちを見て回り、「管理費」などの名目で金銭を徴収している。
外国人労働者を支援するNGO『移住労働者と連帯する全国ネットワーク』の鳥井一平事務局長が指摘する。
「ゼロ受けはもちろん、受け入れ窓口となる監理団体が悪すぎる。受け入れ側の企業や農家を回って『これだけ払えば十分。寮費などでもっと差し引いて問題ない』と吹聴するんです。農家や中小企業はこの誘惑に乗せられてブラックに変貌してしまう」
実習生たちの生活は過酷だ。
低賃金、残業代の未払いは常態化し、1日10数時間も働かされることが珍しくない。冒頭の中国人女性たちの「寮」はまだマシで、一部屋で12人が寝起きしていた事例も発覚している。
言葉や習慣の違いからか、「仕事ができないバカ」と怒鳴られたり、体罰やセクハラも横行。
「『本国に送金するから』とパスポートや銀行通帳を取り上げられ、ピンハネされていた者もいる。保証金や違約金でがんじがらめにされ逃げ出すことすらままならない。結果、過労死や自殺も増えている」(外国人研修生問題弁護士連絡会・指宿昭一共同代表)
■文/鈴木智彦(フリーライター)
※SAPIO2013年9月号