IOCの調査によると五輪開催に賛成する都民は70%で、候補3都市のなかで最低。巨額の税金が投入され、都民の生活にも大きな影響を与えるイベントなので、賛否は当然だ。
そこで本誌は、ともに東京出身で前回の五輪を知る2人に登場願った。片や五輪開催に慎重な立場を取るコラムニストの小田嶋隆氏(56)。片や待望派の経済アナリスト森永卓郎氏(56)。2人のバトルやいかに。
森永:当時、僕は目黒区の都営アパートに住んでいたんですけど、直前に東京から父の仕事の都合でアメリカに引っ越してしまったんです(苦笑)。だから予行演習は生で見たんですが、本番だけ見てない。
小田嶋:僕が住んでいた北区は、東京といっても周縁部で、五輪を機にドラスティックな区画整理が進んだ。貧乏アパートの密集地域が一掃されて人が減りました。小学1年生の時、学年に150人いたのに、卒業時には100人いるかいないか。五輪のおかげで友達が減った(苦笑)。もちろん、いずれ開発は進むので五輪だけが理由じゃありませんが。
森永:すごい盛り上がりだったなァ。記念切手が出たり、グリコのおまけに五輪のワッペンがついたり。
1964年の日本って、海外渡航が自由化された年。それまではいわば鎖国状態で、ほとんどの日本人は生で外国人を見たことがなかった。だから子供は、五輪を見に来た外国人を見たら駆け寄って、サインをもらってた。
小田嶋:1970年の大阪万博の時でさえそうだった。僕、カナダ館の人にサインもらったもの(笑い)。
森永:今回も五輪が東京にくれば、絶対に盛り上がると思うんです。日本人のマインドが明るくなる。それが、私が積極的に開催を支持する大きな理由です。
小田嶋:とくに小中学生あたりまでの子供はすごく盛り上がるでしょうね。僕もあれほどのワクワク感を味わったのは、これまでの人生で東京五輪だけでした。 でも、その一方で、区画整理で追い出されたりとか、迷惑をこうむる人もいた。今回だって、割を食う人はいるはずなんですよ。
森永:たしかに、全員がOKというわけにはいかないでしょうけど……。
小田嶋:とくに僕が嫌なのは招致キャンペーンの雰囲気。2016年の招致活動の時は賛否の両論併記だったのに、とくに今年に入ってからは、メディアが総乗りで「招致バンザイ」をやっている。その気分の作り方が気持ち悪い。お祭りに反対するテキ屋がいないのと同じで、メディアは五輪がくれば儲かるから招致したいのは当然です。税金を使って招致・開催して、儲けは彼らが山分けする。そうした問題点を誰も指摘しないのはおかしい。
正直いえば、僕も心の底から五輪反対ってわけじゃないんだけど、誰も声を上げられない雰囲気だからあえて“反対派”をやっているんです。
森永:なるほど。小田嶋さんが“あえて反対”というのはわかります。ただ、デフレでずっと暗くなっていた日本人のマインドが、ようやく明るくなりつつある。招致に失敗したら、またガクっと落ち込んでしまうかもしれない。
僕は、1964年の東京五輪が「日本が世界に出会う」ステージだったとしたら、今度の東京五輪は「日本の文化を世界に発信する」チャンスだと思う。今度の五輪を機に、日本のサブカルチャー、オタク文化を思い切り世界に売り出すべきだと。
小田嶋:そういえば、森永さんは、五輪招致に成功したら、メイド服を着て応援すると公約しているとか。
森永:そうなんです。僕のメイド服姿の「招致広告ポスター」を駅や街角に貼ってほしいっていってるんですけど、一緒に公約を出した吉田沙保里さんやテリー伊藤さんはポスターになってるのに、僕だけ外されちゃって(苦笑)。
たぶん、今度の五輪で一番盛り上がるのは秋葉原なんです。アキバ文化はアジアは席巻してるけど、欧米はまだ。五輪はその壁を一気にぶち破る起爆剤になると思う。いっそ、日本選手団の入場行進のユニフォームもメイド服にすればいい。
小田嶋:ハハハ。メイド服は用意してあるんですか?
森永:もちろん。もう準備万端ですよ。
※週刊ポスト2013年9月13日号