近ごろ、なにかと缶詰に注目が集まっている。
テレビ番組で「ダイエット効果がある」と紹介されたサバ缶が店頭から消えたり、200種類以上の缶詰を肴にお酒が飲めると評判の缶詰バー「mr.kanso」(全国30店舗)から変わり種のたこ焼き缶詰が発売されて人気となったりと、とにかく話題は尽きない。
新商品の開発が進むとともに、味も缶詰とは思えないほど本格的になった。
いなば食品が2011年より発売しているタイカレーシリーズ(全7種類)は、材料にこぶみかんの葉やレモングラスなど現地生産のものを使うこだわりで、消費者から「缶詰の域を超えている」と高評価を受けている。今年7月にはマルハニチロ食品も追随し、“タイカレー缶戦争”が勃発した。
こうした缶詰人気の背景を解説してくれたのは、栄養学博士で『野菜のたし算ひき算』(幻冬舎刊)ほか著書も多い白鳥早奈英さん。
「タイカレーやツナ缶などは関連のレシピ本も出ているのでブームを後押ししています。ただ缶詰を食べるよりもひと手間加えることで、主婦の方たちも罪悪感なく献立てとして食卓に並べることができますしね」
マルハニチロホールディングスが20~59歳の男女1000人を対象に行った缶詰に関する調査(2012年8月発表)でも、缶詰食品を「おつまみ」として食べると答えた女性は64.8%にのぼり、立派な一品になっていることがうかがえる。
ちなみに、白鳥流の簡単にできる缶詰アレンジメニューを聞いてみた。
「焼き鳥缶は卵をとじて親子丼にできますし、サバ缶は生臭みを取るためにオリーブオイルでタマネギと一緒にサッと炒めて七味をかければ美味しいおつまみに早変わりします。
また、トマト缶も常備しておくと便利です。これもタマネギと炒めて固形スープで煮込んで塩コショウで味付け。冷蔵庫に2~3時間入れれば本格冷製スープの出来上がり。トマトに含まれるグルタミン酸効果で、頭の疲れや夏バテ解消にもってこいのメニューです」
種類も豊富で手軽な食材として使える缶詰だが、このブームはいつまで続くのか。公益社団法人である日本缶詰協会の担当者はいたって冷静に見ている。
「食品缶詰の生産ピークは1980年の約95万トンで、それ以降は減少を続けて2011年には約23万トンと4分の1まで減ってしまいました。その要因は為替の変動や輸出産業として競争力を失ったことなどいろいろ挙げられます。
いま、広く消費者の皆さんに缶詰を知ってもらう機会が増えているのは喜ばしく、手の込んだ缶詰が店頭に次々と並べば売り場も華やかになると思います。でも、構成比から見れば、サバやイワシなど水産品や果物などがメインで、その他の種類は決して大きな市場ではありません」
震災を機に非常食として見直されたことから、2012年の生産量は微増に転じた。しかし、今後の普及拡大や生産量の本格回復を望むには、内需の拡大や輸出産業としての復権が欠かせないというわけだ。
小さな1缶にさまざまな日本食文化が詰め込まれてきた缶詰。この歴史を絶やすことなく、今後の拡大策やさらなる新商品開発にも期待したい。