当局の規制や摘発の努力もむなしく、大麻や脱法ハーブなどの敷居はどんどん低くなっている。若者を中心に広がるクスリ──その背景には売人や運び屋まで一般の大学生が担っている現実がある。罪悪感なくクスリに手を染める大学生の実態を、東野誠氏がリポートする。
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昨年、関西の大学で実施された意識調査では大麻の入手についてなんと学生の6割以上が「可能」と回答。違法薬物と類似した成分を使った脱法ハーブについても、厚労省が今年3月に規制を強化したが、その直後から規制対象外となる商品が出回っている。
裾野の広がりに貢献するのが「アマチュアの売人」だ。広域暴力団三次団体に属する還暦の男はこう語る。 「ガキにガキをどんどん紹介させるのが手っ取り早い。近頃のガキは罪の意識が稀薄で使い勝手がいい。そのぶん俺たちを舐めていて気に入らないんだが」
この男の言う「ガキ」は暴走族OBなどではなく、ごく普通の大学生のことだ。その後、この男から辿って接触できたのが山手線沿線にある有名私大4年生のMだった。予想していたとはいえ、そのノリの軽さには驚かされる。
「将来ですか? もちろんヤクザ屋さんになんか全然なりたくないですね」
そう語るMはちょうど取材の前日も10gの乾燥大麻を3万5000円で、「あまり勉強に関心のない人たちが通う大学」の学生に売ったのだとあっけらかんと話した。仕入れ値はグラムあたり1200円だというから、話が事実なら利益は2万3000円になる。熱心な「学生売人」だと100g単位で仕入れてどんどん売りさばくのだという。
Mは売買ではできる限り自分の手を汚さない。カネに困っている知り合いの中年男性を運び屋に使うという。
「売るほうも買うほうも困っているみたいなんで、僕がやってるのはカスタマー・サービスみたいなもの。売り手から買い手への受け渡しの指示を運び役のおじさんが住むシェアハウスに行って口頭で伝えます。彼の取り分は5000円くらいかな。これで電話の履歴も残らない」
Mは自分では大麻を吸わない。「前にバリで一度だけ吸いましたけど気持ちいいとも思わなかったし、捕まるのは馬鹿馬鹿しい」というのだ。自分が今、話している内容そのものが犯罪行為だという認識はない。
●東野誠(とうの・まこと):福岡生まれ。会員制情報誌記者を経てフリーランスに。週刊誌を中心に執筆活動を続ける。
※SAPIO2013年9月号